ある明け方、夢うつつの状態でモチーフが湧いてきました。
ベートーヴェンの≪運命≫交響曲(第5番ハ短調、Op.67)のテーマに似ている。今浮かんだモチーフを管弦楽曲の素材として使えないだろうか。使うとしたら、どんな曲種にしたらいいだろう。≪運命≫を変容させた主題だから、大規模な管弦楽曲か、それとも協奏曲か……
協奏曲だとしたら、≪運命≫というテーマと格闘できる楽器、ヴァイオリンしかないのではなかろうか……
振り返ってみると、おそらく、このような思考過程を経て、そのモチーフをヴァイオリン協奏曲の主題とすると決定し、かつてからの懸案であった、ヴァイオリンの“魔性”が発現するような曲を書くことに挑戦してみたのです。
作品集≪協奏曲の宴≫に収録した7曲中6曲を改訂する作業に、2012年末からとりかかりました。
この改訂版では、ソロ楽器の演奏表現を大幅に改善していく予定です。
(スコアについては、原則、2010年の譜面のままで改訂しません)
すでに2曲の改訂を行いました。
チェロ協奏曲「天上の蓮」、クラリネット曲「不思議の国のワルツ」に引き続き、人の歌い方に似た表現を目指しています。
さらに、ヴァイオリンの音色と細部の表現を、少しでも理想のヴァイオリンに近づけようと、さまざまな工夫を試みました。
次の、曲のタイトルをクリックすると、試聴できます。
―Violin & Orchestra―
(9:13, WAVファイル) 作品集≪協奏曲の宴≫に収録
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[作品集≪協奏曲の宴≫での説明]
ヴァイオリン協奏曲タイプの管弦楽曲で、ヴァイオリンソロが縦横無尽に活躍します。短調の速いテンポの曲です。
ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調≪運命≫からいくつかのアイデアを得て、作曲しました。主なポイントは以下の3点です。
①≪運命≫交響曲の第1楽章の主題を変形したモチーフを、この曲<運命の変容>のテーマ主題にしています。
②≪運命≫交響曲の第1楽章の第2主題導入部に、ホルンのファンファーレがありますが、そのホルンと類似のメロディーを、展開部の冒頭(3:14~)に置いています。
ベートーヴェンはホルンのファンファーレをひとつのエピソードとして扱い、それをさらに展開しませんでした。私はそのことを残念に思いますので、この<運命の変容>ではホルンの類似メロディーをさまざまなバリエーションで展開してみました。
③≪運命≫交響曲は、短調の曲ですが、第3楽章~第4楽章にかけて連続して演奏される際に、楽章が変わると同時に長調に劇的に転じます。この<運命の変容>では、ヴァイオリンの長い最後のカデンツァ(6:30~7:31)が終わり、オーケストラが復帰すると同時に、ニ短調からニ長調に転じます。
古典派のヴァイオリン協奏曲の路線で作曲しました。ベートーヴェン的な(硬質な)モチーフをモーツァルト風に(柔和に)作曲する、という課題に挑戦してみた曲です。
この曲では、曲想が何度か大きく転換します。曲全体の構成変化や、何度も登場するヴァイオリンとオーケストラとの絡み、カデンツァでのヴァイオリンソロなどが、この曲の聴きどころです。
2009年3月作曲、ニ短調。ソナタ形式に準じた3部形式です。
楽器編成:ソロ・ヴァイオリン、フルート2、オーボエ、クラリネット2、ファゴット、ホルン2、トランペット2、弦楽器群(ヴァイオリンⅠ・Ⅱ、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)、打楽器群(グロッケン、シロフォン、ベル、シンバル、ティンパニー)。
追記
◎ 科学史研究者・森幸也は、論考「ラマルクとベートーヴェン」において、ラマルクの『動物哲学』とベートーヴェンの“運命”交響曲の世界観の類似性を指摘しています。(『生物学史研究』No.75、2005年、25-42ページ)
◎森さちやの音楽作品(管弦楽曲、協奏曲など)は、
ウェブサイト【森の音楽工房】
で試聴できます。
こちらにもどうぞお越し下さい。
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