04 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. » 06

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ニュートンにおける、音階と光のスペクトルとの対比 

Posted on 10:18:17

 
 近代的な運動力学を確立した17世紀の科学者、アイザック・ニュートンは、光に関する研究も行い、『光学』という著作を残しています。
 ニュートンの光のスペクトルの研究は、音階の理論と関連付けられてなされていたようです。
 最近私は、『音楽と、近代科学の形成』という書物を読み進めているのですが、その第8章の内容が実に興味深かったので、今回はその要点を紹介してみようと思います。
(Pesic, Music and the Making of Modern Science, The MIT Press, 2014, Ch.8)

 
 ニュートンは、20代前半に、ペストの流行を避けるために、田舎に引きこもって過ごしていた時期がありました。1660年代半ばのことです。その頃に、万有引力の法則を含む彼の運動力学上の基本骨格が、ほぼ出来上がったことが、科学史研究によってわかっています。この時期を、ニュートンの「奇跡の年」ということもあるくらいです。
 ニュートンが音楽理論に関心を示していたことは、その1660年代半ばの彼のノートに理論的考察が書かれていることから伺えます。彼は若い頃から、さまざまな分野に多面的な関心を寄せていたようです。そして、「音」と「光」を、ともに物理的現象として、相互に理解を深めるものとして対比的に考えていました。
 ニュートンは、一筋の太陽光をプリズムに通して、虹の色に相当する、光のスペクトルを得ました。白色光の中には、異なる色の光が含まれているのですが、プリズムを通すと光が屈折し、色によって光の屈折率が異なるため、赤から紫にいたる色の帯が出現するのです。
 ニュートンは、その光の帯、スペクトルを、音階の1オクターヴに対応するものと考えたのです。
 その対比において、ニュートンは、音階の種類として、「ドリア旋法」を採用しています。この旋法は、今日の階名で表記すると、[レミファソラシドレ](調号なし)に相当します。ミとファ、シとドの間は、半音間隔となります。
 さて、1オクターヴには、7つの音程間隔が存在します。その7つの間隔と、スペクトルの7色とが対応する、とニュートンは考えたのです。レとミの間隔に対応するのが赤です。ミとファの間隔に対応するのが、橙です。以下同様に、黄、緑、青、インディゴ、紫、と対応するのです。
 2個所の半音と対応する、橙色とインディゴは、黄色や紫との判別が難しく、わずかな領域しか存在しないことも、半音との対応にふさわしい、と考えていたようです。また、スペクトルの両端の深い赤と紫が似た色となるのは、オクターヴの音が同じ響きになるのとそっくりだ、と理解していたらしいです。
 こうした考え方は、フランスの神学者マルブランシュや、啓蒙主義者ヴォルテールにも引き継がれたそうです。
 しかしニュートンは、後にこの対応を再考し、部分的に訂正します。1704年の『光学』では、ニュートンリングの干渉縞の計測をもとに、赤と紫との振動数の比を求め、1オクターヴの1対2の比にはなっていないことを突き止めます。
 
「ニュートンリング」とは、レンズがガラスと接触している際に生じることがある、同心円状の明暗の縞模様を指します。実験的には、次のように作成します。平面ガラスの上に、湾曲の小さい(すなわち、大きな曲率半径の)平凸レンズ(上面が平ら、下面が球面)をのせて、上から赤や紫の単色光を当て、上から観察します。すると、同心円状の明暗の縞が見えます。球面で反射される光と,平面ガラスの上面で反射される光が互いに干渉し合って,強め合ったり(明環),弱め合ったり(暗環)した結果として生じる現象です。赤い光で形成されるニュートンリングのそれぞれの半径は、紫の光によるものよりも、大きくなります[森による補注]。
 
 ニュートンの計算では、3対5に近く、より正確には、ほぼ9対14となりました。3対5であれば、音程間隔では、純正律の長6度に相当します。ニュートンは、光のスペクトルを、長6度の音程間隔との対応へと修正したのでした。
 この修正の結果、スペクトルでの色の数は、7色から5色に減り、半音に対応していた橙とインディゴは対応から外れました。
 1オクターヴとの対応は、観測と計算から不可能と悟ったニュートンでしたが、それでも1オクターヴとの対応に執着し、異なる形での対応を思いつきました。1オクターヴの比1対2の2乗、すなわち1対4の3乗根が、赤と紫の振動数の比に等しいはずだ、と彼は考えたのです。
 
1オクターヴの2乗の3乗根の比は、平均律における短6度に、正確に対応します。短6度を3回積み上げると、2オクターヴになるからです。したがって、ニュートンの「長6度」の判断と、「2乗の3乗根」のアイデアとは、実際には齟齬をきたしています[森による補注]。
 
 2乗と3乗を対応付ける発想は、ケプラーの第三法則に由来するものでしょう。
 ケプラーの第三法則とは、惑星の公転周期の2乗と、惑星と太陽との平均距離の3乗との比が一定になる、というものです。ケプラーは『宇宙の調和』でこの法則を述べた後、惑星の音楽に取り組みます。
 ケプラーは、惑星の運動(太陽から見た角速度の極値の比)と音階とを対応づけました。ニュートンはそれに倣って、光のスペクトルと音階との対応にこだわり続けたのでした。
 
 音楽の理論的考察は、ピュタゴラス以来、しばしば科学的発想を導いたり、世界観構築の青写真を提供したりしてきました。ニュートンのこの事例も、そうした歴史上の系譜を継ぐものといえましょう。
 蛇足ですが、ニュートンは、「ピュタゴラスの天球の音楽とは、重力のことである」と述べているそうです。彼の運動力学の中心的概念の重力に、ニュートンは世界の調和を汲み取っていたのでしょう。そして、世界の調和とは、音楽から類推される和声的調和であったのでしょう。

関連記事
スポンサーサイト

テーマ - 自然科学

ジャンル - 学問・文化・芸術

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/98-ff08bb90
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック