10 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30. » 12

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

モーツァルト≪戴冠式ミサ曲≫から到来する汎神論的世界 

Posted on 17:16:27

 
「モーツァルトの本質は、飛翔であり、疾走である……そのとき、モーツァルトの音楽が神的性質を帯びることは、確かである……むしろそれは、神的というより、霊的と呼んだほうがいいであろう。善の霊、悪の霊が倫理的規範を超えて戯れ、迅速に入れ替わるのが、モーツァルトの世界である」
(礒山雅『モーツァルト=二つの顔』講談社、2000年、pp.217-218)
 
 上記の礒山氏のコメントは、私には実に納得のできるものでした。とりわけ、モーツァルトの短調の交響曲や、宗教音楽の、テンポの速い楽章からは、まさにそのような印象が到来してきます。
 今回は、このコメントの内容によく適合する、≪戴冠式ミサ曲≫K.317の、第二曲<グロリア>、第三曲<クレド>について、私見を語ってみます。

 
 ≪戴冠式ミサ曲≫では、オーケストラと合唱団が用いられ、オペラと似た編成となっています。そのため、一聴するとオペラの一部かと勘違いしそうな、技巧的で装飾を凝らした部分もあります。ソプラノとテノールがオーケストラをバックにして二重奏を繰り広げるところなど、オペラと変わりありません。
 だが、一転して、フーガ風のパッセージ(フガート)が出現したり、暗い短調の旋律が到来したりし、宗教的な厳粛な雰囲気に復帰します。この二つの対極的な楽想が、めまぐるしく転換するのです。
 
 <グロリア>では、楽曲構造は、ソナタ形式に準ずる三部構成となっています。提示部に相当する部分では、二つの明朗な主題がハ長調とト長調で現れ、神の栄光を讃えます。第2主題はオペラ風のソリストによる重奏となっています。
 ところが、展開部相当の中間部では、一転して激情的なト短調の急速な旋律を、オーケストラと合唱団が奏で始めます。彼のト短調の交響曲(25番、40番)を彷彿とさせるような深刻で悲痛な曲調です。ハ短調に転じた後、ハ長調の第1主題に復帰します。
 再現部相当の領域では、第2主題もハ長調で現れ、調和的統一感を持ってこの楽曲は閉じます。
 この楽章は確かに「飛翔であり、疾走」と感じます。とりわけ中間部の暗い疾走感は圧倒的です。また、楽想の明暗の対比も、実に鮮やかです。
 
 <クレド>においても、明朗快活な楽想と、フガートや短調の領域とがめまぐるしく入れ替わります。磯山氏の言うように「善の霊、悪の霊が倫理的規範を超えて戯れ、迅速に入れ替わる」ごとくです。
 キリストの受難と死を表現する部分では、テンポは緩やかになり、不安定な調性のもと、短調を基調にして転調が繰り返され、深淵を覗き込むような、密度の濃い音楽の織物となっています。そして、復活を暗示するように、冒頭の活力に満ちたテーマが再現されます。
 この楽章でも、「霊的なるもの」が宿って楽曲を駆動しているように感じます。
 
 モーツァルトの宗教音楽は、「霊的存在と一体化する音楽」といえそうです。バッハのような、超越的・絶対的神から流出してくる音楽とは異なり、自らが聖なるものの化身となるのです。
 バッハの音楽を「一神論」的とするならば、モーツァルトは「汎神論」的、といえるのではないでしょうか。
(汎神論とは、この世界のすべての存在物に神・聖なるものが宿っている、と捉える宗教世界観のことです)。
 バッハがキリスト教の唯一の神と向かい合っているとすれば、モーツァルトは、精霊に満ちた豊穣なる存在世界と同化しているようです。また、聖なるものに対して、相対的にみれば、受動的なバッハに対して、モーツァルトはより能動的、と捉えられるでしょう。バッハの場合、超越的・絶対的神から、霊感を受け取っています。モーツァルトは、自らが精霊と化して、存在世界と共鳴する音楽を紡ぎ出しています。
 モーツァルトの≪戴冠式ミサ曲≫は、彼の汎神論的世界観が十全に表出された作品のように、私には感じられます。


関連記事
スポンサーサイト

テーマ - クラシック

ジャンル - 音楽

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/97-df5c64a9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック