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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

モーツァルト≪交響曲第四十番ト短調≫第4楽章の壮絶なる展開部 

Posted on 15:22:44

 
 古典派時代に開拓された、交響曲や協奏曲や弦楽四重奏曲などの曲種に適用される「ソナタ形式」は、その構造の中にドラマを含んでいます。
 [提示部‐展開部‐再現部]の三部構成のうち、とりわけ劇的な楽想の変容がみられるのが、「展開部」です。
 今回は、すさまじいばかりの変容を遂げる展開部を持つ、モーツァルトの≪交響曲第四十番ト短調≫の第4楽章に注目してみたいと思います。
 本日(8/10)四国に上陸して猛威を振るった台風11号のような、怒涛の嵐の楽章です。
 これぞまさにソナタ形式の「展開部」と言いたくなります。

 
 モーツァルトのこのト短調交響曲のフィナーレである第四楽章は、提示部で、峻厳なト短調の第1主題と、柔和な変ロ長調の第2主題とが対照的に立ち現れます。第2主題の登場後は、変ロ長調が調性の基調となり、明るい希望の兆しが見えます。
 展開部では、素材としては第1主題の音型が執拗に使われます。調性が不安定で、頻繁に転調し、転調後もその調に落ち着きません。鬼気迫るエネルギーの奔流となっています。
 展開部の後半では、第1主題の2小節単位の音型が、1小節ずれて次々と後を追うようにして現われます(ストレット音型)。その際、2小節単位で転調し、ハ短調からその属調、さらにその属調と、フラットの数をひとつずつ減らし、イ短調の後は、シャープの数をひとつずつ増やし、嬰ハ短調まで登り詰めます。
 何ものかに執り憑かれたような転調です。嬰ハ短調で転調の嵐は一息つきます。その転調の過程では、弦楽5部が4声部の対位法を形成し、フーガの構造が現出しています。
 展開部の終幕では、嬰ハ短調から逆の転調の道筋を経て、ト短調の主調に段階を踏んで舞い戻ります。その過程では、基本骨格が二声のシンプルな対位法が形成されています。転調によって遥か彼方の高みにまで飛翔し、精神的な変容を遂げた後、緩やかにもとの場所に着地する、と描写できるような展開部です。
 「聖なる狂気」の発現と収束、とでも表現すべき内容を持つ展開部なのです。曲は自律的なひとつの生命体となり、自己生成的に展開を遂げています。
 再現部では、第1主題の後、第2主題が、提示部のときとは異なり、第1主題と同じト短調で暗い曲調に変貌して現れます。その後も調性の中心はト短調で、悲劇の楽章が統一感をもって幕を閉じます。

 ソナタ形式にはドラマがあります。秩序だった枠組の中に、作曲家がさまざまな素材を自在に活用し、物語を紡いでいくのです。
 音楽史家のジュリアン・ラシュトンは、こうした特徴に対し「秩序ある自由」と評しています。
(ジュリアン・ラシュトン、前田直哉訳『古典派音楽小史』音楽之友社、1995年、p.122)
 相当程度まで逸脱を許容した秩序の形式が、ソナタ形式でした。その枠内で、楽曲は生成発展する自律的・能動的な生き物となったのです。その代表事例が、モーツァルトのこの楽章でした。

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