06 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. » 08

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ハイドンの交響曲第94番≪驚愕≫第4楽章の推進力 

Posted on 12:43:26

 
 ハイドンの研究者、中野博詞氏は、ハイドンの交響曲における低音パートの変化を振り返り、バロック音楽では不可欠であった通奏低音が次第に崩壊していくのがわかる、と指摘しています。
(中野博詞『ハイドン復活』春秋社、1995年、p.68)
 ハイドンの最後の12の交響曲、通称「ザロモン交響曲集」では、通奏低音の様式から完全に決別し、異なる原理で音楽が推進されています。とりわけ、ハイドンの交響曲の第4楽章における曲の推進力・駆動力には目を瞠るものがあります。
 たとえば、交響曲第94番≪驚愕≫の第4楽章は、曲の内部に駆動力が宿り、それによって音楽が推進されていく見本のような楽章です。今回は、この曲に籠められている推進力をもたらす仕掛けに着目してみたいと思います。

Haydn/Sym94-4_Theme-1 
Haydn/Sym94-4_Theme-2 
(ハイドン、交響曲第94番ト長調、第4楽章の第1主題と第2主題、全音楽譜出版社のスコアより)
 

 基本構造はソナタ形式で、ト長調の第1主題とニ長調の第2主題をもちます。どちらの主題も明朗快活で、第2主題は優しくユーモラスな風情があります。主題に含まれるモチーフはシンプルで、その素材が自在に活用されて、自律的に発展し変貌を遂げていきます。まずは、モチーフに駆動力が内在されているのです。
 また、第2ヴァイオリンとヴィオラは、チェロとコントラバスのパートに寄り添いながら伴奏したり、主旋律の第一ヴァイオリンと同期してホモフォニックな厚いメロディーの流れを形成したり、時に対位法的な絡んだりします。内声部が濃密に描きこまれ、内声部主導の和声進行が曲の駆動力となっているのです。
 曲に推進力を与えているのはそれだけではありません。展開部では劇的な転調が頻繁に行われます。ホ短調、ト短調や変ロ長調などが出現します。突然転調しても、転調したことがすぐに明確にわかります。和声構造がしっかりしているからです。また、モチーフの構造にシンコペーションのリズムが含まれているため、楽章全体に浮揚感が生じています。さらに、第一主題からの推移部において、第二主題の直前で、突如、一旦停止します。そして、弱起で第二主題が始まり、曲想が転じて再び快活な楽想が進展していきます。
 他にも、主旋律パートを徐々に増やしたりする音量変化の工夫や、十六分音符のスケールの活用、ティンパニーの効果的利用による躍動感の演出も図られています。
 このように、モチーフの自己生成的展開、内声部の充実した和声、劇的な転調、シンコペーションの多用、突然の休止、などの道具立てによって、興奮の渦に巻き込むフィナーレ楽章が構築されているのです。
 
 交響曲というジャンルを確立させたハイドンは、バロック音楽で曲の流れを支配していた通奏低音に代わって、楽曲を内部から駆動するさまざまな仕掛けを工夫し、活用しました。その工夫の中でも、数字つき通奏低音に対する、和声構造に関する直接の代替手段が、緊密に織り込まれた内声部の機能和声でありました。また、通奏低音という束縛から解放されたからこそ、創作における自由度が大きくなり、曲が自在に展開していくようなさまざまな仕掛けを組み込むことができるようになったのです。
 この時代に、和声構造の基盤が、より内在化していきました。通奏低音という外声部によって支配され、他律的で機械仕掛けのように響く感もあるバロック音楽から、自律的な和声を中核とする発展的駆動力が獲得されて、古典派やロマン派への道が拓かれていったのです。
 モーツァルトの後期の交響曲や、ハイドンの最後の「ザロモン交響曲集」は、和声の自律的運動力や自由な展開の技法を強く感じさせる代表的楽曲でしょう。あるいは、彼らの円熟期に創作された弦楽四重奏曲群も、生命力が充満した自己生成的発展のエネルギーが感じられる曲種といえるでしょう。


 

関連記事
スポンサーサイト

テーマ - クラシック

ジャンル - 音楽

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/93-be373d70
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック