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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

神への祈りと対話の音楽―バッハの≪幻想曲とフーガ ハ短調≫― 

Posted on 15:38:47

 
 この数日間、バッハのオルガン曲を中心に、バッハの教会向けの作品や宗教音楽を聴き込んできました。
 その中でもとりわけ印象深かった、≪幻想曲とフーガ ハ短調≫BWV537というオルガン曲と、オルガン・コラール≪来たれ、異教徒の救い主よ≫BWV659について、個人的感懐を述べてみようと思います。


 
 この作品、≪幻想曲とフーガ ハ短調≫では、持続する低いハ音のぺダルトーンの上に乗って曲が開始され、悲嘆に満ちた内省的な旋律が、徐々に他の声部と絡まりながら、展開されていきます。
 前半の<幻想曲>は、神の眼の前で、真剣に自己分析と懺悔を行っているようです。通奏低音と対位法との緊密な絡みは、≪マタイ受難曲≫を想わせる、バッハらしい宗教的雰囲気を醸し出しています。
 後半の<フーガ>では、主題が提示された後、主題と同じ音型のメロディーが追いかけていきます。相手の言葉を復唱しながらの、深刻な対話を交しているようです。通奏低音が半音階で上昇する部分では、天上の神に向けて手を差し伸べて、歩み寄っていこうとしている印象を抱きます。
 このオルガン曲には、バッハの音楽技芸上の特徴が縮約され、彼の音楽への精神の志向性が色濃く反映されていると感じます。彼の宗教的感覚を理解する上での好適な楽曲でしょう。
 
 バッハの、フーガを含むオルガン曲からはしばしば、この曲と同様に、「神への祈りと対話」が感じられます。オルガンという、ひとりで複数の声部を同時に演奏する楽器は、天上の神に1対1で問いかけ、祈りを捧げるのに最もふさわしい楽器でしょう。そして、フーガという形式は、聖なるものとの対話を自ずと想起させます。
 ルター派プロテスタントであったバッハは、教会の仲立ちを排して、直接神と向き合う宗教的意識を持っていたことでしょう。バッハのオルガン曲の数々は、超越的な神と直接対峙して受け取った霊感が生み出した作品群であるように思います。
 バッハの宗教的作品においては、はるか上空から曲に光が差し込んでくる感触を抱きます。そして、その光は通奏低音で反映されて、対位法の内部で乱反射して、万華鏡のめくるめく視覚が聴覚に転じたような感触が到来します。
 聖なる光をバッハは、通奏低音という秩序的構造として受け止め、それを土台として緻密な作品を構築している、と私はイメージしています。
 
 もう1曲、オルガン・コラール≪来たれ、異教徒の救い主よ≫に関して。
 この曲では、前奏が通奏低音で始まります。そしてそのバスラインは、旋律的音階を形成しています。最初の十六個の音符を階名で記すと、[ラシドレミファミレドミソファミレド♯ラ]となります(調はト短調で、最初はGの音)。これらの音はすべて八分音符からなっています。
 ドイツのプロテスタント教会で歌われていた賛美歌(コラール)をもとに編曲されたオルガン曲です。主旋律は賛美歌のメロディーに装飾を加えながら、格調高く奏でられます。その一方で、通奏低音が、聖者の着実な一歩一歩の歩みを描いているようです。主旋律とバスの旋律とが、見事に対比的に扱われているのです。
 メロディーラインと通奏低音を基本骨格とする、バロック時代の対位法の見本のような作品です。
 
 この通奏低音に対する、バッハの注目すべき見解があります。バッハは、通奏低音の目的を、「神の栄光を反映させ、心情の楽しみを与えること」であるとし、通奏低音は人間の考案ではなく、神の創造秩序の一部と見なしていました。
(ヴァルター・ブランケンブルグ、植村耕三訳「バッハと啓蒙主義」、角倉一朗編『バッハ叢書9・バッハの世界』(白水社、1978年)所収、p.243)
 通奏低音は、バッハにとって、自分の意志で作曲したものではなく、神によって与えられたものだったのです。通奏低音の楽想は「向こうからやってくる」といった感触だったのでしょう。神から流出してきた何ものかを、秩序的構造として捕捉したものが、バッハにとっての通奏低音であったのです。
 
 以上、日曜作曲家と音楽史研究の視点から、バッハにオルガン曲について私見を語ってみました。

なお、上記の作品≪幻想曲とフーガ ハ短調≫[a]と≪来たれ、異教徒の救い主よ≫[b]は、次のCDで試聴しました。2曲とも、このCDに収録されています。
『主よ、人の望みの喜びよ―バッハオルガン名曲の花束―』(日本コロムビア)
[a]…オルガン奏者は、イェルゲン・エルンスト・ハンセン、オルガンは、デンマーク、コペンハーゲンのホルメンス教会のオルガンです。
[b]…オルガン奏者は、井上圭子、オルガンは、福島市音楽堂のオルガンです。

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