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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

平均律に対するケプラーの評価をめぐって 

Posted on 18:09:16

 
 17世紀初頭に活躍した天文学者、ヨハネス・ケプラーは、「惑星の音楽」を創案しました。その音楽では、音律として、「純正律」が想定されていたことを、前回のブログ記事で指摘しておきました。
 今回は、それに関連して、もう少しケプラーの音楽観を探ってみたいと思います。
 
 ケプラーの「惑星の音楽」では、2対3や、3対5といった、簡単な整数比に基づく和声の考え方に根ざして、惑星の音階などが考案されていました。和声に対する考え方は、ピュタゴラス音律や純正律の理念を引き継いでいます。また、取り上げられている音程の比は、ほとんど、純正律で用いられている数比に対応しています。
 こうしたことから、ケプラーが「惑星の音楽」で想定していた音律は「純正律」である、と私は判断しました。ここまでは、前回のブログ記事の後半の要約です。
 
 では、この「惑星の音楽」が記された1619年当時、それ以外の音律はなかったのでしょうか。
 ガリレオ・ガリレイの父、ヴィンチェンツォ・ガリレイは、1580年代にすでに、今日で言う「12等分平均律」の構想を提案していました。1オクターヴを12の半音に等分して音階を作成するメリットを説き、純正律の不完全さを批判しています。
 人間の歌声は、数の比に基づいた正確な音程間隔では歌っていない、とヴィンチェンツォは言います。実際、オクターヴのみは、1対2の比に対応した音程で歌いますが、それ以外の音階は、純正律の音階とは正確には一致しないで歌うのが普通です。
 むしろ、ヴィンチェンツォは、半音の間隔が等しくなるべく調弦された、撥弦楽器のリュートやヴィオールの音階に人は馴染んでおり、人の歌声はその音階に近くなっている、と感じていました。
 純正律に調律され、半音の間隔が不等分割で、全音の間隔が二種類ある鍵盤楽器の音階よりも、正確な数比を形成しないものの、半音の間隔が理想的には等しいリュートなどの楽器の音階のほうが、ヴィンチェンツォには好ましく思えたのです。
 そしてヴィンチェンツォは、古代ギリシアの音楽理論家、アリストクセノスの音階理論を援用しつつ、今日で言う「等分平均律」に相当する音律の構想を示しました。
 
 ケプラーは、ヴィンチェンツォがアリストクセノスに依拠して考案したその音律を、知っていました。『宇宙の調和』の第3巻でその内容を紹介しています。
 ケプラーによれば、その「技巧的な弦の分割の仕方でもともかく聴覚には十分である」といいます。しかしながら、「思索のため、あるいはむしろ歌唱の自然な性質を見きわめるためには、こうした調律は有害」と批判しています。
(ヨハネス・ケプラー、岸本良彦訳『宇宙の調和』工作舎、2009年、pp.194-196)
 現実の音楽演奏の場での有効性は認めますが、理論構築の際や、音の科学的探究が目的の場合には、ヴィンチェンツォの音律はふさわしくない、とケプラーは判断したのです。
 「惑星の音楽」を提示するのに、確かに平均律は相性がよくないかも知れません。平均律の構想を知りつつも、ケプラーは敢えて、16世紀のルネッサンス期に主流であった「純正律」に留まったのでした。
 
 ヴィンチェンツォの平均律の構想は、音楽演奏の現場からの要請に対応したものでした。また、ケプラーの楕円軌道も、ティコの正確な観測データと合致させるという要請に自ら応えたものでありました。どちらも、現実との擦り合わせがなされ、検証がなされた上で形成されてきた理論です。そして両者とも、伝統的な調和的秩序の観念を放棄した上で、新たな数学的秩序を導入した理論構築物です。
 ところが、「惑星の音楽」では、対応する現実の音は聴くことができず、検証可能性が閉ざされています。そのことが却って、制約なしに想像力の翼を広げることを可能にし、古代以来の価値観を温存した上での構築物を生成せしめたといえましょう。
 ケプラーは、楕円軌道論においては、古代ギリシア以来の伝統的観念、「一様なる円運動」を粉砕しました。その一方で、「惑星の音楽」では、ギリシア由来の「数比に基づく協和音」の理念を継承し、「天体の音楽」というピュタゴラス以来の宇宙の音楽的調和の構図を信奉していました。
 ケプラーの音楽観は、楕円軌道論とは異なり、古代の伝統に忠実なものでありました。

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