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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

モーツァルトのピアノ協奏曲第20番第1楽章のふたつの主題をめぐって 

Posted on 09:38:31

 
 この協奏曲の第1楽章は、ソナタ形式に則って書かれています。
ところが、提示部で示されるふたつの主題に関して、短調のソナタ形式のセオリーから、再現部において逸脱しているように聴こえます。スコアからもそう見えます。
 この逸脱をめぐって、私の感じたことを記してみようと思います。
 Mozart/PC20_Theme-1 
Mozart/PC20_Theme-2
(ピアノ協奏曲第20番第1楽章の第1主題と第2主題、全音楽譜出版社のポケットスコアより、p4, p5)
 
 18世紀後半、古典派の時代になると、交響曲や弦楽四重奏曲や協奏曲などの器楽曲のジャンルで、共通のフォーマットといえる「ソナタ形式」という書式が確立してきました。
 「第一楽章形式」あるいは「ソナタ・アレグロ形式」と呼ばれることもあり、前記の各種器楽曲の速いテンポの第一楽章に適用された形式です。ただし、緩徐楽章や、終楽章に用いられることもしばしばありました。
 ソナタ形式は、[提示部+展開部+再現部]の三部から構成され、提示部と再現部に関してはさらにその内部に整然とした構造が組み込まれている、秩序だった形式です。
 提示部において、対比的なふたつの主題が示されます。長調の場合は、[第1主題―第2主題]の調性の関係が、[主調―属調]となります。短調の場合、[主調―平行長調]となります。ふたつの主題は、曲調と調性の2点において、対立関係を形成します。
 展開部を終え、再現部になると、提示部と似た構図が繰り返されるのですが、ふたつの調性の関係が、提示部とは異なってきます。[主調―主調]となるのです。短調の場合も、[主調―主調]となりますが、場合によっては[主調―同名長調]になります。
(『新音楽辞典 楽語』音楽の友社、pp.331-332、を参照)
 古典派の協奏曲の場合、ソナタ形式楽章では、通例ふたつの提示部があるのです。ピアノ協奏曲では、第1提示部ではオーケストラのみで、ピアノが登場しません。第2提示部で初めて、主役のピアノが現れるのです。
 
 さて、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番第1楽章では、第1提示部、第2提示部ともに、[第1主題―第2主題]の調性の関係は、[ニ短調―ヘ長調]でした。冒頭に掲げたスコアをご参照ください。[主調―平行長調]のセオリー通りです。
 すると、再現部では、第2主題の調性が、主調のニ短調か、同名長調のニ長調で再現されることが期待されます。
 ところが、再現部で第1主題はニ短調で現れるのですが、第2主題は、提示部と変わらず、ヘ長調で現れます。[ニ短調―ヘ長調]の対立関係が温存されているのです。セオリーから逸脱しています。
 これをどう理解したらいいのでしょうか。
 
モーツァルトの短調のもうひとつのピアノ協奏曲、第24番では、セオリー通りになっています。第1提示部が第2提示部や再現部と構造的にやや異なるため、第2提示部と再現部を比較します。第2提示部では、ふたつの主題が[ハ短調―変ホ長調]、再現部では、[ハ短調―ハ短調]となっており、図式どおりです。また、ふたつのト短調交響曲、第25番と第40番の第1楽章・第4楽章の計4つの楽章ではすべて、提示部の[ト短調―変ロ長調]が、再現部では[ト短調―ト短調]となっており、約束事が守られています。
 
 ソナタ形式には、「対立とその解決」という理念があります。提示部での調性上の対比は、再現部では統一され、対立が解消する構図となっているのです。
 すると、第20番の第1楽章では、ふたつの主題の対立関係が、再現部で解決されていないことになり、一見、ソナタ形式の根幹の理念に反するようです。
 確かに、第2主題の入りかただけに着目すると、再現部でも再び対比が生じてしまうように感じます。ところが、再現部での第2主題は、提示部とは異なり、主題の調性がヘ長調から徐々にニ短調へと変貌していきます。再現部では、第2主題が主調へと歩み寄っているのです。これが、再現部での対立解消の1点目です。
 それだけではありません。第2提示部では、第1主題のニ短調に対し、第2主題でヘ長調を確立した後、調性の中心はほぼヘ長調のまま推移し、コデッタ(小終結部、その後、展開部へと向かう)はヘ長調で終わります。それに対し、再現部では、第2主題が変容し、ニ短調に落ち着いた後は、ほぼニ短調のままカデンツァに到り、コーダもニ短調で終結します。再現部で主調に回帰して、この楽章は閉じます。これが、再現部での対立解消の2点目です。
 つまり、第2提示部における調性上の鮮明な対比が、再現部ではわずかに現れるのみとなっていたのです。
 ふたつの主題での調性の対立は解消しなくとも、楽章の構成の上で、モーツァルトは調性の対立と解消の構図を成立させていたのでした。
 したがって、細部のみを見るとセオリー違反に映るこの楽章も、楽章全体としては、ソナタ形式の理念に忠実に構成されていたのです。
 
 「ソナタ形式は神話的原型」という研究者もいます。
(Scott Burnham,“The second nature of sonata form," in Suzannah Clark & Alexander Rehding eds., Music Theory and Natural Order, from the Renaissance to the Early Twentieth Century (Cambridge, 2001), pp.140-141)
 闘争と彷徨、さらにその解決といった古来からの人類の経験を、象徴的に表現する形式ということでしょう。
 ソナタ形式に、人類的普遍性が宿っているとすれば、作曲家はその枠組をそれほど窮屈には感じないでしょうし、演奏家と聴衆は、演奏を終えると懐かしい安らかな心地に到るのではないでしょうか。
 モーツァルトの短調のピアノ協奏曲と交響曲におけるソナタ形式楽章は、どれも提示部でのふたつの主題の対立が明確です。短調の剛毅な第1主題に対して、長調の柔和な第2主題が対比されます。その対立は、再現部で統合され、短調の深刻な曲調が深められる感触を抱きます。
 ソナタ形式の理念は、長調よりも短調の楽章で、より鮮明に具現されている、と私は感じています。そして、その代表的楽章が、モーツァルトのピアノ協奏曲と交響曲における短調のソナタ形式楽章なのです。
 日曜作曲家の私がお手本にするのに最適な楽章でありました。
 

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