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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

プトレマイオスの2オクターヴ―音階と円軌道― 

Posted on 17:35:54

 
 古代ローマ時代の天文学者、プトレマイオスは、古代の天動説を集大成し、『アルマゲスト』を著した学者です。また、相当正確な地中海世界(当時のローマ帝国の領土)の地図(緯度・経度入り)を作成したことでも知られています。
 そのうえ、プトレマイオスは音楽理論の研究者でもありました。
 そして、ピュタゴラスやボエティウスらと同様に、音楽における和声の協和や音階と、天体の運動における調和的秩序との間に、対応・類比を見て取っていました。

 
 プトレマイオスの音楽理論は、彼の天動説と同様、古代の諸学説を批判的に総括したものといえます。ピュタゴラス音律に基づく協和の理論や、ギリシア時代からのさまざまな音階の知見を元に、彼独自の考察を加えた著作『ハルモニア論』を残しています。
(アリストクセノス/プトレマイオス、山本健郎訳『古代音楽論集』京都大学学術出版会、2008年)
 この著作では、この時代(2世紀)において既に、近代以降の音律の問題の予兆となるような議論がなされているのに、私は驚きました。
たとえば、4度の完全協和が、全音2つプラス半音ひとつと正確には等しくならないことを論じていたりするのです(同書、p.146)。このことは、純正律の全音に、2種類ある(大全音と小全音がある)ことからも理解できることです。
 
純正律では、完全4度内にある長3度を協和音程にするため、全音2つを大全音と小全音に不等分割しています。大全音のほうが、ピュタゴラス音律から得られる全音です。したがって、ピュタゴラス音律の全音2つと半音ひとつでは、完全4度よりも間隔が広くなってしまいます。
 
 これ以外にも興味深い議論があるのですが、この例だけからも、プトレマイオスの音楽理論の水準の高さが知られます。
 
 さて、私が彼の音楽書『ハルモニア論』で最も興味を持ったのは、2オクターヴという音階をプトレマイオスが特別視している点でした。第2巻・第4章のタイトルを引用します。
 
「完全音階について。2オクターヴだけがその名に値すること」
(同書、p.190)
 
 その理由の要点は、「この音程だけに、あらゆる協和音程が、措定された諸形式において内在するから」です(同上)。言い換えれば、音楽的調和を形成する基本的要素と音階はすべて、2オクターヴの中に含まれている、とプトレマイオスは考えていたのです。2オクターヴこそが、音楽という世界を構成する必要十分な小宇宙だったのです。
 そして予想通り、天文学者でもある彼は、この2オクターヴを、天体の運動と類比的に捉えます(同書、第3巻・第8章、p.274~)
 2オクターヴという完全音階の音組織は、天体の円運動1回転に対応する、とプトレマイオスは考えていたようです。1オクターヴで半円が形成され、2オクターヴでもとの位置に戻ります。円の対称性・完全性と、音楽的調和とが、重ねられて理解されているのです。
 2つの音の関係には、協和の場合と不協和の場合があるのと同様に、2つの星座の関係も、協和・不協和があると見ていたようです。12の星座と2オクターヴ内の音程とが対応します。
 さらにプトレマイオスは、円の内部に作図される半径や内接正三角形・正方形、正六角形によって形成される円弧の長さのさまざまな比が、協和音程を形成する弦の長さの比に対応することを示していいます。
 プトレマイオスは、音楽と天体の円軌道との間に、さまざまな類比を読み取っていたのでした。
 
 少し考えてみれば、この両者を対応させる思考は、それほど不可解なものではありません。協和的音階も、円軌道も、どちらもギリシア的調和・秩序の世界観と深く結びついた概念だからです。ギリシア的美意識が、音階と宇宙に投影されて読み取られた、といえるかもしれません。
 音楽史と科学史においては、どちらも、このギリシア的調和の観念が1600年前後に揺らいできます。
 音楽史では、ガリレオ・ガリレイの父、ヴィンチェンツォ・ガリレイが、音律における「平均律」の構想を提示しました。また、科学史では、ヨハネス・ケプラーが、円軌道に替わる「楕円」軌道の法則を明らかにしました。両者とも、プトレマイオスが疑わずに所持していたギリシア的固定観念を覆した業績といえます。
 「ゆがんだ真珠」が語源といわれるバロック時代の幕開けの時期に、音楽史と科学史において、同様の歴史的変容―秩序意識の変容―が訪れたのでした。
 
 実は、私はいま、「平均律と楕円軌道」というテーマで論文を書いています。
 今回ここまで書いてきた内容は、その論文の枕とサワリの部分に対応します。

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