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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

C.G.ユングの芸術論(その2) ―集合的無意識と個性の刻印― 

Posted on 15:45:28

 
 前々回の記事、(その1)では、芸術作品の創作プロセスにおいて、作者の意志の及ばない「自律的コンプレックス」が作者の内部に形成され、成長していく、とユングが考えていたことを紹介しました。
 そしてその自律的な生き物は、個人を超えた領域、集合的無意識から何らかのものを汲み上げている、とユングは捉えています。
 
 今回は、その話の続きです。
 
 
 このような捉え方をすると、芸術作品は本質的には個人とは関係ない人類的所産であるから、作者個人は重要ではない、との見方も出てくるかもしれません。
 しかし、この見方は、芸術作品の源泉をすべて作者個人に求めるのと同様の、極端な見解でしょう。
 芸術作品には、多かれ少なかれ、人類的普遍性と、作者個人の刻印が見られます。
 モーツァルトやベートーヴェンの音楽作品もそうですし、シェイクスピアやドストエフスキーの文学作品も、ピカソやダリの美術作品もそうです。
 むしろ、芸術作品における人類的普遍性は、作者の個性を纏った形でしか出現し得ない、と言った方がよさそうです。
 では、なぜそうなるのでしょうか。
 ユングの集合的無意識の所説に沿って考えてみます。
 
 ユングによれば、「集合的無意識」はそれ自体で存在しているわけではなく、生得的な観念やイメージがあるわけでもない、といいます。
 では、「集合的無意識」とは何か。それは、
 
「一つの可能性、潜勢力」であり、「大脳構造内に、私たちに伝えられてきたポテンシャリティ」
(「分析心理学と文芸作品の関係」、C.G.ユング、松代洋一訳『創造する無意識』平凡社、p.42)
 
 である、といいます。そしてそれは、
 
「完成された芸術作品から遡って、発現以前の原初的イメージを再構築することしかできない」(同書、p.43)
 
 ということです。
 芸術作品の根源的エネルギーとなっている原初的・神話的イメージは、最初から一定の形あるいは観念として分節化されているのではなく、曖昧模糊とした不定形な渾沌とした潜勢力なのでしょう。
 それが、ある特定の時代・地域で生きている個人を通して、結晶化してくるのです。
 その時代精神を反映して、あるいは、その社会・文化の芸術様式を踏まえた形で、その潜勢力はある意匠・衣裳を纏って、析出してくるのです。
 つまり、「集合的無意識」という潜勢体は、個人の形成力を通して、現実化してくる、ということです。
 したがって、芸術作品における人類的普遍性と、個性の刻印とは、排他的事象ではなく、むしろ、相補的な存在、あるいは相乗的効果、と考えたほうがよいでしょう。
 逆説的ではありますが、強烈な個性を発する作品ほど、その作品から全人類的声が聴こえてくるものです。
 ベートーヴェンの≪運命≫交響曲、ピカソの≪ゲルニカ≫など、まさにそうだと感じます。
 
 その意味で、ユングの言う「自律的コンプレックス」の出現は、それぞれ1回限りの、再現不可能な出来事だと考えられます。
 唯一無二の作者の、ただそのときの心身状態とともに、「自律的コンプレックス」は立ち現れ、生成・変化し、ある産物を残していくのです。
 それゆえ、作者の個性が否応なしに刻印されつつ、人類的普遍性を内包した作品が形成されてくるのです。
 
 蛇足ですが、創作における「集合的無意識」と「芸術作品」との関係は、古代ギリシアの根源物質をめぐる考察における「アルケー」と「コスモス」との関係によく似ている、と思います。
 不定形・無秩序の渾沌とした「アルケー」(根源物質)から、秩序だった世界、「コスモス」が立ち現れてくる。
 まさに、芸術作品の生成過程のアナロジーになっています。
 
以前、こんなブログ記事を書いています。ご参照下さい。
 
作曲は何と似ているか(1)根源物質からの世界生成と似ている
 
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