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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

オーケストラの本来的役割―引き立てる・結びつける― 

Posted on 09:17:41

 
 「オルケストラ」という言葉は、古代ギリシア時代から使われていました。
 ただし、演奏集団を表す用語ではなく、ある特定の「場所」を指示する言葉として。
 その場所とは、劇場空間の一部、舞台と客席の“境界”の場、「中間的」位置、でした。
 
 このことから、オーケストラという存在の本来の役割が見えてくるように思われます。
 
 古代ギリシアの円形劇場においては、舞台と客席の間に半円形のスペースがあり、その場所を「オルケストラ」と呼んでいました。
 ギリシア神話を題材とした劇が演じられる際、「オルケストラ」には合唱隊(コロス)が陣取り、役者たちの演技を引き立てるとともに、観客を舞台に惹きつける役割を果たしていました。
 合唱隊は、歌を歌うだけでなく、踊ったり、演技をしたりしたようです。
 (小宮正安『オーケストラの文明史』春秋社、1章を参照)
 
 つまり、「オルケストラ」という場所は、主役を引き立てたり、異世界空間へと人々をいざなったりする機能を果たしていた、ということです。
 
 さて、この古代ギリシアにおける「オルケストラ」という用語の意味内容は、近代以降の演奏集団としてのオーケストラの在り方に対して、さまざまな示唆を投げかけているように感じます。
 ここから先は、上記の内容をヒントにして思い描かれてきた、個人的オーケストラ論を語ってみようと思います。
 
 オーケストラには「引き立てる」役割がある
 
 古代ギリシアの「オルケストラ」という劇場空間で合唱隊が果たしていた最大の役割、主役や役者たちを「引き立てる」という機能は、近代のオーケストラでもみられます。
 その典型的な事例が、オペラと、協奏曲です。
 どちらも、オーケストラは主役ではありません。
 
 オペラは、まさにギリシア時代の演劇を、さまざまな意味で受け継いでいる総合芸術といえます。
 モンテヴェルディの『オルフェオ』のように(オルフェウス神話が題材)、ギリシア悲劇を題材としたものが数多く作られてきました。物語が、“神話的”構成をもつものが多いのです。
 そして、かつての「オルケストラ」という場所は、オーケストラ・ピットという一段低い観客からは見えない空間となりましたが、舞台と観客との中間の位置である点は、変わっていません。現代のオペラでも、オーケストラは通常、その位置で演奏します。
 したがって、オペラにおけるオーケストラは、“神話的”演劇における引き立て役という役割と、舞台と観客の境界的位置空間のふたつの意味において、古代ギリシアの「オルケストラ」を引き継いでいるのです。
 
 もうひとつの協奏曲というジャンルは、ピアノやヴァイオリンなどのソロ楽器を主役として、オーケストラがその背後で盛り立てていく曲種です。
 オペラとは違って、オーケストラも舞台上に存在するのですが、オーケストラがでしゃばり過ぎてはいけないのです。活躍するのはソロ楽器奏者であり、場合によってはオーケストラとソロ楽器が対等に渡り合いますが、あくまでオーケストラは引き立て役です。
 
 オペラと、協奏曲におけるオーケストラは、古代の「オルケストラ」の機能を引き継いでいるという意味で、まさにオーケストラの本道を行くものでしょう。
 
 ところで、モーツァルトは幅広い音楽ジャンルにおいて作品を残してきました。礒山雅さんは、オペラと協奏曲こそが、モーツァルトの最も重要なジャンルである、と考えているようです。(礒山雅『モーツァルト=二つの顔』講談社)
 そうだとすれば、モーツァルトは、オーケストラをその本来的な在り方に添った形で用いるときに、彼の能力を最大限に発揮していた、といえるかもしれません。
 モーツァルトの協奏曲は、27曲のピアノ協奏曲を筆頭にして、傑作ぞろいですが、その背景には、当時のオーケストラの編成規模も関係していたと思われます。
 モーツァルトの活躍した18世紀末期には、19世紀のロマン派の大規模なオーケストラとは異なり、2管編成を基調とした小規模なものでした。そのサイズは、強烈な主張をすることなく、ソロ楽器奏者を引き立てる役として最適でありました。
 こうした歴史的偶然も作用して、モーツァルトの天賦の才能とも相俟って、協奏曲の傑作群が誕生した、といえるかもしれません。
 
 では、オーケストラの代表的ジャンルである、交響曲はどのように捉えたらよいのでしょうか。
 
 オーケストラには「結びつける」役割がある
 
 古代ギリシアの「オルケストラ」という場所で合唱隊が果たしていたもうひとつの役割、舞台と観客とを「結びつける」という機能は、交響曲や、交響詩などの管弦楽曲において、確実に引き継がれている、と判断できます。
 
 ベートーヴェンの≪運命≫交響曲や、その系譜に連なる交響曲には、オペラと同様、“神話的”筋書き―奈落の世界に落ち、試練・啓示を経て、死からの再生を遂げる展開―を有するものがあり、人間存在の深淵や、世界の奥深い構造を垣間見させてくれます。
 (詳しくは、ブログ記事<“神話的構成”をもつ交響曲―≪運命≫とその系譜の作品群―>を参照してください)
 
 オーケストラは、聴衆を惹きつけ、異世界へといざなう役割を本来持っていました。
 近代以降の交響曲は、オーケストラを媒介として、その機能を如何なく発揮してきた、と言えるでしょう。
 交響曲においては、オーケストラは脇役ではなくなりましたが、聴衆を異世界と結びつける、というもうひとつの役割は果たしているのです。
 
 さらに、言うまでもないことですが、オーケストラは、作曲家と聴衆との間の媒介者として機能しています。
 作曲家がスコアに封印したさまざまな想念は、オーケストラの存在なしには復元できません。作曲家があるときに掬い上げ、構築した独自の世界が、異なる時空間において、再現されるのです。もちろん、作曲家の意図に対して誤解や逸脱があったり、新たな創発的化学反応が生じたりすることはあるにせよ。
 
 したがって、オーケストラは、現在でも「結びつける」という本来的役割を二重の意味で果たしている、といえます。
 
 まとめ
 
 古代ギリシアの「オルケストラ」という劇場空間が持っていた、「引き立てる」「結びつける」というふたつの機能は、近代以降の、演奏家集団としてのオーケストラにも引き継がれていました。
 オペラや協奏曲では、オーケストラは、古代ギリシアの合唱隊のように、主役や役者たちを引き立てます。
 また、さまざまな管弦楽作品において、オーケストラは、異世界や作曲家の独自な世界と、聴衆とを結びつけます。
 
 古代ギリシアからの伝統が、形を変えて息づいているオーケストラ。
 こんなところにも、オーケストラの魅力を感じます。
 

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