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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

『荘子』養生主篇・最終節の暗示―意識的営為の限界と身体的暗黙知― 

Posted on 10:06:57

 
 中国の古典、『荘子』の養生主篇には、不思議な、気になる一文があります。
 その第6節、養生主篇の最後の文章です。
 
 岩波文庫の注釈によると、「難解な文章で、読み方も意味も落ち着かない」ということです。
 学術的に厳密な解釈を下すのは困難でしょうが、直観的には、言いたい本質的なことは伝わって来るように私には思えます。
 
 その個所の書き下し文を、岩波文庫から引用します。

 
「指は薪をすすむるに窮するも、火は伝わる。その尽くるを知らざるなり」
 (岩波文庫、金谷治注『荘子 第一冊』、p.100)
 
 現代語訳は次の通り。
 
「指で薪をおしすすめ[て火をたくが、それをす]ることができなくなっても、火は続いていく。火がまったく無くなることは決してないものだ」(同上)
 
 ここから先は、学問的吟味から離れて、この文章から私が感じ取った意味内容を、自由に綴ってみようと思います。
 
 火を絶やさないように「薪をすすめる」というのは、人間が特定の目的をもって行う意識的営為・知識に基づく行動を象徴しているように思います。
 ところが、ある時点まで行くと、そこから先に進めなくなることがあるでしょう。

 西洋哲学でも、言葉による分析を究めていっても、ヴィトゲンシュタインが言うように、論理的探究では突破できない“壁”があります。
 また、仏教思想では、言語による分別的理解を超えた境地(=無分別智、あるいは般若の智慧)を重視しています。
 
 続いている「火」とは、荘子ですから、「タオ」の流れ、この世界を吹き抜けている見えない風のような力、あるいは効果でしょう。
 「火が尽きない」というのは、『老子』の次の言葉を連想させます。
 『老子』第4章の現代語訳を掲げます。
 
「道は空っぽの容器のようであるが、それが活動したときには、一杯になってしまうことはないのだ」(岩波文庫、蜂屋邦夫訳『老子』、p.27)
 
 つまり、『荘子』の上記の文章の「火」は、老荘思想の「タオ」そのものと見ていいのではないか、ということです。
 
 そして、文意を汲み取ってみると、火は尽きないから「安心していいよ」といっているように感じるのです。
 身体が、「タオ」の流れと共鳴し、「タオ」に抱かれているとき、おのずと生起してくる生き方がありそうです。現代的言葉遣いをするならば、「暗黙知」とともに生きる、ということでしょうか。
 
 たとえば、道を歩いていて、勝手に体が動いて、歩き方が変わった。振り返ってみると、つまずきそうなものを無意識のうちに避けていた。
 こういったことが起こります。
 あるいは、私が小学生の頃の、できなかった鉄棒の逆上がりが、なんとなくできそうだと感じてやってみたらできた、という体験。鉄棒では、高校での「蹴上がり」もそうでした。うまくは説明できないけれども、体はわかっている感覚。
 自転車に乗る、というのも、言語的には説明が難しいですが、身体が習得している運動といえます。
 
 『荘子』養生主篇の最終節が示唆しているのは、人間の意識的営為には限界があることと、「タオ」への信頼、そして身体的暗黙知への信頼、ということでしょう。
 
 作曲をしている私は、このことを実感しています。
 一方で、作曲とは、ある特定の理論的枠組の中に、さまざまなモチーフや発想を盛り込んで、意識的に構築していかねばなりません。
 ところがその一方で、潜在意識や身体の語りかける何かを感受することも不可欠です。
 むしろ、どこからか湧きあがってくるもの(=火)こそが作曲のベースであって、意識的構築は付随する行為のように感じています。

 創作において、意識的構築に行き詰っても、「タオ」に還ることにより、その曲の本来的な流れに再び乗ることができるだろう。
 『荘子』の上記の一文は、こうした楽観的見通しを、私に与えてくれる文章でした。
 
※参考まで。中央公論社の『世界の名著4 老子 荘子』では、同じ節の文章を、「適当な養生の道さえ心得ていれば、人の生命も尽きることがない」(p.209)ことの暗喩と捉えています。
 

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