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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

細部に至る演奏表現の工夫―森の音楽工房のオーケストラサウンド― 

Posted on 10:01:53

 
 オーケストラの音色の魅力に取り憑かれている私は、作曲した管弦楽作品のスコアを、4台の「音源モジュール」という機材を使って、できる限りリアルで自然なオーケストラ演奏に仕上げていきます。
 
 今回は、いかにオーケストラサウンドを表現していくか、をめぐる話をしようと思います。
 
 予備知識として(飛ばしても結構です)
 
 楽譜作成ソフトに書き込んだ管弦楽作品のスコアは、MIDIデータという形式で取り出すことができ、他の音楽ソフトに活用できます。
 私の場合、そのデータを、シーケンス・ソフト、YAMAHA XGworks ST に移動します。
 
 この時点で、PCと機材とが接続されていれば、スコアのMIDIデータは、MIDIインターフェイス・MOTU midi express 128 を通して4台の音源モジュールに送られ、オーケストラの各パートが同時演奏可能な状態となります。
 
 続いて、4台の音源モジュールを、曲に応じた設定にします。また、各パートの音色には、あらかじめ適切な編集を施してありますが、場合によっては編集しなおします。
 
 そして、各パートのMIDIデータを、シーケンス・ソフトで丁寧に詳細にわたって修正し、リアルなオーケストラサウンドやソロ楽器演奏が再現できるようにしていきます。
 
 カラヤンの功績と、オーケストラの演奏に伴う原理的な課題について
 
 有名なカリスマ指揮者カラヤンは、クラシック音楽とステレオ録音されたレコードの普及への貢献などが評価されていますが、オーケストラの演奏技術についていえば、それ以前のオーケストラの演奏水準を相当上回る、新時代のオーケストラ演奏の見本を提示した指揮者、と私は判断しています。
 カラヤン以前の、トスカニーニやフルトヴェングラーのような歴史的名指揮者の演奏と比べてみると、主観的な演奏表現の好みは別にして、オーケストラの統率力が格段の向上を遂げている、と感じられます。
 
 実際のオーケストラの演奏には、克服に困難の伴う、原理的な弱点があります。
 それは、大人数で演奏するため、全員が細部に至るまで意思統一して演奏するのが難しい、ということです。その意思が、作曲家のものにせよ、指揮者のものにせよ。
 たとえば、テンポを徐々に遅くしていくときや、その後の音符の出だしが不ぞろいになりがちであったり、パートごとにアーティキュレーション(強弱のつけ方や音符のつなぎ方)が定まっていなかったり、音量変化の統一が取れていなかったり、音量のバランスが悪かったり、してしまいがちです。
 聴いて雑な演奏に感じるオーケストラの場合、これらの弱点を無防備にさらしている演奏であることが多いように思われます。
 
 そしてカラヤンは、この困難な課題に取り組んで、オーケストラの統率力を、それ以前の時代の水準から数段階レベルアップさせた指揮者、と私には思われます。カラヤン以降は、その演奏水準が、国際的な標準になっていった観があります。
 
 デスクトップミュージックはオーケストラ曲で真価を発揮する
 
 さて、デスクトップミュージック(DTM)という言葉がありますが、これは、コンピューター中心で演奏を作成していく音楽を指します。
 DTMでは、すべての音符を、MIDIデータとして(※)制御・加工できます。これは、DTMの大きなメリットのひとつです。
 各パートの1音1音について、音の強弱・音の長さ・音の出だし位置などを、細やかに微妙に変化させることができます。さらには、音程を微妙に上下させたり、クレッシェンドをつけたり、テンポをわずかに揺らしたりも自在にできます。
 つまり、オーケストラでの演奏に必要で、指揮者と各パートの楽団員に任される楽譜演奏上の技術的内容は、ほぼすべてDTMでは制御可能なのです。
 
 一方、実際のオーケストラの演奏には、上記の通り、克服に困難の伴う、原理的な弱点があります。
 作曲家の立場からすると、各パートのすべての音符を、できる限り制御して演奏したいという欲求を抑えられません。その意味で、DTMという道具は、管弦楽作曲家の分身となりうるものなのです。
 同じひとつのmfの4分音符でも、どのパートのどの小節内にあるかで、音の強さや長さは変わってきます。1拍を100%の長さで演奏するとは限りませんし、一定の音程で演奏するとも限りません。また、1小節の中の4拍も、それぞれの長さが等しくはありません。
 ほんの一例ではありますが、こうしたことを、実際のオーケストラでは不十分に、不統一にしか実現できませんが、DTMでは、作曲家の意思を思う存分に、統一して表現できるのです。
 
 オーケストラ曲をDTMで演奏すると味気ない演奏になる、という意見もありますが、これは、楽譜から機械的にデータ作成したものを、手を加えずに(人の感受性のチェックを経ずに)そのまま演奏したような場合のことでしょう。実際のオーケストラでも、ただ楽譜をそのまま演奏しただけなら味気ない演奏になるのと事情はあまり変わりません。
 また、人工知能に作らせる曲に違和感を覚えるのも、人間の感受性のフィルターを通していないためでしょう。
 
 細部に至るまで、入念に演奏表現を刻印していく場合、オーケストラ曲はDTMでこそ豊かな表情を顕してくる、というと、言いすぎでしょうか。
 
 参考:MIDIデータについて
 [例]第5小節2拍目の8分音符、高さG、mf
 元データ:location: 0005-02-000, note G3[67], gate time: 0.240, velocity: 75.
 加工後:location: 0005-02-014, note G3[67], gate time: 0.210, velocity: 72.
 
 
音程のずれ、出だしの不一致、なども敢えて導入
 
 こうしたオーケストラの欠点がわずかに残っている状態のほうが、オーケストラらしいともいえるでしょう。そのため、私が制作している演奏では、意図的に、快適に聴こえる範囲内で、出だしや音程をわずかにずらしたりもしています。
 ただ、この「ずれ」というのは本来意図して作られるものではないので、人工的に作成するのが極めて難しく、いまだに納得のいく「ずらし」には到達していないのが現状です。
 
 音源モジュールの音色素材
 
 私の音楽制作工房では、オーケストラサウンドの素材となる波形を、音源モジュールという機材4台から得ています。中心となっているのは、3台の「プロテウス・オーケストラ(Proteus Orchestra)」という名の音源モジュールで、この音源モジュールの音の素材は、シアトル・オーケストラの録音よるものです。
 (残りの1台は、YAMAHA MOTIF RACK XS です)
 
 「プロテウス・オーケストラ」のサウンドは、各弦楽器の独奏や、弦楽合奏の各パートごとの音や、金管・木管楽器の独奏と合奏の音、打楽器の音などが、さまざまな局面で使えるように録音されています。
 同じバイオリンの音色でも、レガート・ピチカート・トレモロ・スピカートの音など、状況に応じた利用を念頭に、多様なサウンドが作られています。さらに、音の強弱や高さに応じての音色変化もつけられるように設定されているため、オーケストラサウンドの細部にまで凝りたい管弦楽作曲家にとっても、活用のしがいのある機材となっています。
 ほとんどのオーケストラパートが、ていねいに注意深く収録されている、高品位の機材で、繊細な表現も壮大な表現も、作曲者の意図に的確に応答してくれる音源モジュールです。
 そしてさらに私が、各楽器の音色が状況に応じて適切に表現してくれるように、さまざまな編集を、原音に対して施します。同じオーボエソロでも、音色を暗くしたり明るくしたり、アタックの強さを変化させたり、適切なヴィブラートを掛けたり、など、よりリアルな表現を追求しています。
 この「プロテウス・オーケストラ」3台をベースにして、他の音源やピアノのサウンドを重ねて、森の音楽工房のオーケストラサウンドは構築されています。
 そして、各パートの一つ一つの音符に対して、音の強弱・長さ・出だしの位置などの要素をていねいに吟味して、パートの演奏トラックを作り、それらをミックスして、オーケストラサウンドに仕上げています。
 
 したがって、編集・加工次第で、実際のオーケストラのCD録音と同等の音色と音質が、原理的には再現可能と言えるかもしれません。
 とはいえ、ホールで録音したオーケストラサウンドと、オーケストラの録音素材をミックスしたものではどこか違いが出てきてしまいます。臨場感の再現は、DTMが不得意のテーマかもしれません。
 科学哲学的には、この問題は、「全体は部分の総和で再現可能か」という還元主義の問題とつながります。
 
 演奏表現の刻印
 
 実質的に、パート練習や、オーケストラのリハーサルに相当することを、DTMでは何度も繰り返しできます。
 具体的には、楽譜に書かれたすべての音符について、データチェック・編集・加工を行います。
 基本となるポイントは、音の強弱・長さ・出だしの位置です。さらに、クレッシェンドやデクレッシェンドをつけたり、音程を微妙に変化させたりもします。
 テンポについても、小節ごとや、小節内で、わずかに変化させて、最適な曲の流れを導きます。
 また、20から30パートに及ぶ、パート間の音量バランスを、曲の進行と共に変化させて、なおかつ、強弱記号よりも細かく段階をつけて、設定していきます。
 さらに、必要に応じて、ソロ楽器やピアノでは、鍵盤に向かって作曲者が演奏した、リアルタイム録音のデータを元に、編集・加工を行う場合もあります。
 
 このようにして、作曲者の曲に込めた微妙な表現内容を、できる限り入念に、刻印していきます。
 オーケストラサウンド全体についても、各パートのバランスや、録音レベル設定、高音域から低音域までのバランス設定などを、さまざまな作成段階でコントロールできるため、DTMの演奏録音の品質改善は、容易にできるのです。
 
 自ら作曲した管弦楽作品のスコアを、本人自身で入念に演奏表現にまで仕立て上げる。
 オーケストラ嗜好癖をもつ人間にとって、これほどまでに陶酔できる道楽は他にないでしょう。
 
 この記事は、<録音・機材操作の工夫―森の音楽工房のオーケストラサウンド―>に続きます。
 
※音楽制作の全体の流れについては、<私の手順―作曲・音楽制作の概略―>を参照してください。
 
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テーマ - DTM、宅録、ミックス、レコーディング、機材

ジャンル - 音楽

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