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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ラマルクの進化論は二本立て 

Posted on 09:13:59

 
 フランスの生物学者、J.B.ラマルクは、しばしば「ダーウィンの先駆者」あるいは「進化論の先駆者」と評されます。ところが、彼の進化学説は、一般には、相当誤解されているように、私には思われます。
 そこで、今回のブログ記事では、ラマルクの進化理論の概略を解説し、どの部分に誤解があり、なぜその誤解が生じたかについて、書き記しておこうと思います。

 
 ラマルクは、『動物哲学』(1809年)をはじめ、いくつかの著作の中で、生物種の進化に関する自身の見解を述べています。進化の事実問題と要因論をともに、おそらくは初めて体系的に論じた人物です。
 ラマルクは、生物進化の構図として、ふたつの異なる過程を想い描いていました。主過程の「漸次的複雑化」と、副過程とみなされる「環境への適応」の二本立てです。
 漸次的複雑化は、自ずと起こる過程で、自然発生した原始的な生命体が、時間とともに、複雑な高等生物へと変化していく、と彼は考えていました。その物理的メカニズムとして、様々な「流体」(熱・電気・神経)の運動の作用を想定していました。
 もう一方の環境への適応は、主過程から外れる変則例、多様化が生じる過程であり、それがなぜ生じるかを、「用・不用説」と「獲得形質の遺伝説」を用いて説明しています。 「用・不用説」とは、よく用いる器官は発達し、用いなくなった器官は退化する、とする学説です。水鳥の水かきの発達や、ヒラメやカレイの眼の非対称性、モグラの眼や蛇の脚の退化などの例が挙げられています。また、「獲得形質の遺伝説」とは、親が獲得した形質が子孫に伝達される、という理論です。この考え方は、当時の遺伝に対する一般的な理解でもありました。
 この2つの学説(用・不用説+得形質の遺伝説)によって、環境の変化に対し、生物の必要性が変化し、習性が変わり、形態が変貌を遂げる、という一連の変化を、ラマルクは説明したのです。
 高校の生物の教科書に掲載されているような、一般に普及しているラマルクの進化学説、即ち「ラマルキズム」は、ラマルクの進化論における副過程(つまり、環境への適応と多様化の過程)のみに着目して語られている、一面的な理解でしかありません。ラマルクが考察していた主過程を、無視しているのです。
 では、なぜこのような誤解が生じたのでしょうか。
 それは、次のような歴史的事情があったためでしょう。
 近代的な(科学的装いを伴った)進化学説は、ラマルクの学説の約50年後、イギリスのCh.ダーウィンによって確立されます。そして、ダーウィンの主張の中核は、進化要因論の「自然選択説」でした。その「自然選択説」は、環境への生物の適応をめぐる理論です。そのダーウィンの学説と比べて、先駆者ラマルクはどのような考え方をしていたのか、と確認してみると、「用・不用説」と「得形質の遺伝説」にたどり着くわけです。
 つまり、その誤解は、ダーウィンの「自然選択説」と対比される部分がとくに注目されため生じた、と考えられます。
 しかし、ラマルクの進化学説は、主過程と副過程の二本立てでありました。そして、進化の中心は主過程の方にある、と彼は見做していたと思われます。
 
参考:ラマルク、高橋達明訳『動物哲学』朝日出版社、1988年。
 森幸也「ラマルクの目指したこと」『科学史研究』(No.189)1994年、34-42。
 
[蛇足]
 ところで、「獲得形質の遺伝説」は、20世紀の遺伝学(メンデル遺伝学と分子遺伝学)では否定されましたが、21世紀において発展を遂げている発生学の新分野、エピジェネティクスによって、見直しがなされつつあります。遺伝子は変わらずとも、遺伝子の使い方・発現の仕方が変わり、形質に差が出ることがありうるからです。
 そのため、環境への適応をめぐる「獲得形質の遺伝」現象は、特定の条件下では否定されない可能性が出てきたのです。
 分子生物学者ネッサ・キャリーは、次のように述べています。「異端視されているラマルクの遺伝モデルが、ある場合に限っては起こりうるということを示した」
(ネッサ・キャリー、中山潤一訳『エピジェネティクス革命―世代を超える遺伝子の記憶―』丸善出版、2015年、p.116)
 それゆえ、長らく否定的にしか扱われていなかったラマルクの進化学説も、部分的には復活する余地があります。


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