FC2ブログ

07 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. » 09

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

地球温暖化要因論争の主要論点と絡む「アイリス仮説」 

Posted on 09:38:02

 
「CO2主原因説」の根拠の核となっている「温室効果」が、実際にどの程度効いているのか、を推測する指標に、「気候感度」があります。
 以前のブログ記事<定説不在の「気候感度」―CO2温暖化説の根拠の脆弱性―>で確認したように、その「気候感度」の値には定説がありません。それゆえ、温室効果理論は「CO2主原因説」に対する十分な説得力を持っていない、と私は認識しています。
 さて、今回は、その「気候感度」の問題と深く関与している、「アイリス仮説(虹彩仮説)」について、紹介しておこうと思います。

 
 海水温や気温が上昇した場合、海水からの水蒸気の蒸発量が増えるため、雲ができやすくなります。その水蒸気や雲が、(それらの温室効果により)さらに温度を上げる方向に作用するのか、あるいは逆に、(降雨や降雪や太陽光の遮蔽により)温度上昇を緩和する方向に作用するのか、という論点があります。正のフィードバックが生ずるのか、負のフィードバックが生ずるのか、という問題です。
 どちらを優勢と見るかによって、「気候感度」の値にかなりの違いが生じるため、このフィードバックの扱いは大きな争点となっているのです。
 「アイリス仮説」は、熱帯の海洋水域において、負のフィードバックがさらに大規模に生じている可能性を示唆するモデルです。2001年にリチャード・リンゼンらが提唱した仮説で、それ以降、その説に対する反論・批判やリンゼンによる再反論などがありましたが、2015年と2017年に、アイリス仮説や負のフィードバックを支持する論文(*)が現れ、少なくともこの学説を軽視するわけにはいかない状況になっていると思われます。
 では、「アイリス仮説」とはどのような理論なのでしょうか。
 
 熱帯海洋において、局地的な温度上昇が起こると、そこでは上昇気流が盛んになって、積乱雲ができ、スコールが降ります。その過程に伴って、対流圏高層では広範囲にわたって巻雲が減り、限られた雲の中心付近を除いて、上空の湿度が低下します。
 その結果、ピンポイントに生じた積乱雲の周囲は、広々とした乾燥エリアとなり、海面や大気から宇宙空間への赤外放射が盛んになり、気温の上昇が緩和されます。
 言い換えれば、高層雲の量が減り放熱可能な領域が格段に増えることにより、負のフィードバックが作用する、ということです。
 このメカニズムを上空から観察できるとすると、あたかも目の虹彩(アイリス)が光の量に応じて広がったり狭まったりする現象と似ているため、「アイリス効果」と名付けられたのでした。
 
 私はこの仮説を、深井氏の著作で初めて知りました。
(深井有『地球はもう温暖化していない―科学と政治の大転換へ―』平凡社、2015年、p.50)
 上記の書物には、アイリス効果のほかにも、海洋で作用している負のフィードバックのメカニズムが存在していることを紹介しています(pp.48-49)
 熱帯海域は、地球表面の中で最も太陽エネルギーを多く受け取る領域です。地球の気候変動の趨勢を決定づける熱帯海域において、負のフィードバックが大規模に生じている可能性がある、という指摘なのです。
 深井氏は、その負のフィードバックを考慮に入れて、気候感度を+0.66℃と見積もっています。この値は、IPCCが算出した気候感度、+1.5~4.5℃に比べると、はるかに小さい値です。IPCCの中間値、+3.0℃と比較すると、4分の1程度です(p.137)
 もし、20世紀の地球温暖化にCO2濃度の上昇がある程度寄与していて、21世紀においてもその効果が継続するとしても、2100年までに+1℃の上昇があるかないか、といった程度でしょう。都市化による局地的温暖化の程度の方が、大きくなりそうです。
 20世紀の温暖化の大部分は、おそらくは太陽活動の変動によるものでしょうから、21世紀の今後も、太陽活動の変動如何によっては、寒冷化に転ずる可能性も十分に考えられます(スベンスマルク、丸山茂徳氏、桜井邦朋氏らの見解に基づく)。その場合、CO2削減による温暖化対策は、意味をなさなくなるでしょう。予防原則を適用するならば、深刻な寒冷化の可能性を念頭に置いた食糧対策が必要となってくるかもしれません。
 
 このように、「アイリス仮説」の信憑性が増せば、「気候感度」は低い値となり、温室効果の実効性は従来の推測よりも相当小さく見積もられます。そして、「CO2主原因説」の中核の根拠、温室効果理論の説得力が乏しくなります。
 したがって、この「アイリス仮説」は、地球温暖化要因論争の行方を左右する、鍵となる理論のひとつとなっているのです。日本ではこの学説の認知度が低そうなので、科学史研究者の私が敢えて紹介することにした次第です。
 
2015年と2017年に登場した、アイリス仮説や負のフィードバックを支持する論文については、英語版の≪Wikipedia≫の<Iris hypothesis>のページで紹介されています(以下の2論文)。
 日本語版の『ウィキペディア』の「アイリス仮説」のページには、この2つの論文は紹介されていませんでした(2018年3月2日現在)。
 
・Mauritsen T.; Stevens B. (2015). "Missing iris effect as a possible cause of muted hydrological change and high climate sensitivity in models". Nature Geoscience. 8: 346-351.
 
・Choi, Yong-Sang; Kim, WonMoo; Yeh, Sang-Wook; Masunaga, Hirohiko; Kwon, Min-Jae; Jo, Hyun-Su; Huang, Lei. (2017). "Revisiting the iris effect of tropical cirrus clouds with TRMM and A-Train satellite data". Journal of Geophysical Research: Atmospheres: Volume 122, Issue 11, 5917-5931.
 
 英語版の<Iris hypothesis>の解説の当該部分を訳しておきます。
「2015年に「アイリス効果」が生起している可能性を示唆する論文が、再び出版されました。 また、その論文では「アイリス効果のための妥当な物理的メカニズム」が提案されています。 2017年には、「熱帯巻雲が降水効率と密接に関連して負のフィードバックをもたらす」という趣旨の論文が発表されました。 確証されれば、これらの知見は 「アイリス効果」を強く支持することになるでしょう」


関連記事
スポンサーサイト

テーマ - 博物学・自然・生き物

ジャンル - 学問・文化・芸術

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/246-e7437c65
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

ブログ

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック