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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

オーケンの粘液胞説と、マーギュリスの共生説 

Posted on 09:11:23

 
 生物体の最小単位をめぐる、19世紀初頭と20世紀後半のふたつの学説は、時代を隔てながらも共振しているようです。
 我々の、生命に対する見方が揺さぶられるような二人の見解を、整理して確認してみようと思います。

 
 19世紀初頭に、ドイツの自然哲学者、ロレンツ・オーケンは、「粘液胞説(インフゾリア説)」を提唱しました。
 この仮説は、始原粘液(Urschleim)を含む微小な小胞、あるいは滴虫類(Infusoria)が、生命の組織構造の基盤であり、有機体はそのような滴虫類の統合体である、という見解です(T.S.ホール、長野敬訳『生命と物質 下』平凡社、1992年、p.170)
 つまりオーケンは、「生物体は小さな微生物がたくさん集まってできている」と捉えたのです。
 彼は、生命の最小単位を、「粘液胞」(生体内の滴虫)とみなしました。
 オーケンのこの学説のおよそ30年後に、「細胞説」が確立し、動物も植物も、細胞が生命を有する最小単位である、という認識が広まっていきます。それゆえ、オーケンの「粘液胞説」は、「細胞説」の先駆仮説と位置づけることもできます。
 オーケンはさらに、ドイツの自然哲学者らしく、「人間が全宇宙の縮図である」という見解を持っていました。また、「宇宙が歴史的発展の産物である」との思想も保持していました。
 当時のドイツ自然哲学者たちにある程度共有されていた、それらの観念と、かれの「粘液胞説」とをブレンドしてみると、オーケンがおよそ次のような構図で生物体を捉えていたであろうことが見えてきます。
 人間の身体は、微生物の集合体であり、微生物が生命の最小単位である。微生物から構成される我々の身体は、生物世界の歴史的発展の結果である。
 このようなオーケンの生命観は、大まかには妥当なものであり、200年前という時代を考慮すれば、その後の生物学の展開を予見させる見方であった、といってもよいでしょう。
 
 さて、オーケンのおよそ1世紀半後、1970年頃に、リン・マーギュリスが真核生物の起源に関する「共生説」を提起しました。
 動物も植物も、細胞は核やミトコンドリアを有する真核細胞でできています。それに対して、大腸菌などのバクテリアは、核膜がなく、ミトコンドリアのような細胞内の小器官がありません。そうした細菌類の細胞を、原核細胞と呼びます。
 「共生説」では、動物細胞と植物細胞に共通する真核細胞が、どのようにして誕生したのか、という問いに対して、次のように推測します。
 太古代までは、地球上に原核生物(つまり細菌類)しかいなかったが、21億年前頃、ひとつのバクテリアが宿主となり、その中に、複数のバクテリアが寄生・変形して、真核細胞が形成されたであろう。動物型では酸素呼吸するバクテリアが寄生してミトコンドリアとなり、植物型では、さらに光合成するシアノバクテリアが寄生し、葉緑体に変貌を遂げた、と考えられる。
 このような筋書きの共生説は、提案当初は、ネオ・ダーウィニズムの進化の図式と相容れないため、相当な批判を浴び、受容されなかったらしいです。ネオ・ダーウィニズムの図式では、進化の過程は系統樹のような「分岐」が基本です。ところが、共生説では、異なる生き物が「合体」するわけです。
 その後、分子生物学から真核細胞内のDNAをめぐる証拠が蓄積され(ミトコンドリアと葉緑体が、核とは別の独自なDNAを持っていること、シアノバクテリアと葉緑体のDNAの類似性、など)、現在では、共生説は真核生物の起源を説明する定説となっています。
 
 多細胞生物は、生きている最小単位といえる、微生物に類似した細胞が集まって構成されています。そしてその細胞は、そもそも、複数のバクテリアが共生することにより、原型ができてきたらしいのです。
 ということは、我々の身体は、二重の階層を有する微生物の集合体、と見ることができます(細胞内のミトコンドリアが“生きている”とは言い難いかもしれませんが、少なくとも核や細胞質とは異なる独自の「活動」を行っています。そのような意味で、現在の細胞内にも微生物が共存する、と捉えることができるでしょう)
 生物体は、無数の細胞という微生物と、細胞内で活動する微生物(小器官)をコントロールしながら生きていると同時に、それらの微生物が各自の生命活動を続けることによって生かされているのです。
 
 オーケンの「粘液胞説」とマーギュリスの「共生説」は、そうした生物における階層性に対する認識を深め、我々が異なる階層との相互作用によって生命を維持していることを実感させてくれる学説でありました。
 我々は、無数の微生物とともに生きているのです。


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