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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

“神話的構成”をもつ交響曲―≪運命≫とその系譜の作品群― 

Posted on 06:47:16


 優れた文学作品には、人類の集合無意識に眠っている原型的発想・神話的構成を汲み上げ、作品化したものがある。それらは人間存在の本質を顕わにする喚起力があるため、訴えかける力が非常に強い。
 
 竹端寛さんは、スルメブログの記事<村上春樹と「神話の力」>で、上記の趣旨の内容を、村上春樹さんの作品を例にとって、説得的に語っています。
 
 今回は、このブログ記事に触発されて気付いた、クラシック音楽の領域に見られる“神話的構成”をもつ作品群について、語ってみようと思います。
 
 <村上春樹と「神話の力」>の要点
 
 竹端さんは、キャンベルとモイヤーズの『神話の力』から、次の文章を引用しています。
 
「この種の冒険の第一段階では、英雄は、彼がなにがしかの支配力を持っていた住み慣れた世界を離れ、別の世界の入り口へとやってきます。湖の岸とか海辺ですね。そこでは深淵の怪物が彼を待ち受けている。で、ここで二つの可能性があります。ヨナのタイプの物語では、英雄は怪物に飲み込まれて奈落の底へ落ちていき、のちによみがえる-死と再生のテーマのバリエーションですね。意識界の人格は、ここでいかんともし難い無意識のエネルギーの支配下に入り、試練と啓示に満ちた恐ろしい夜の海の旅をしなければなりません。それと同時に、どのようにしたらこの闇の力と折り合いをつければいのかを学ぶ。そして最後に腹から出てきて新しい生き方に到達するわけです。」(ジョーゼフ・キャンベル&ビル・モイヤーズ『神話の力』早川文庫、310頁)
 
 そして、村上春樹の愛読者である竹端さんは、こうした構成が、村上春樹の世界観と見事に通底していると指摘しています。
 
 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』における「やみくろ」であり、『ねじまき鳥クロニクル』における「井戸」。あるいは『海辺のカフカ』における森。どれも「いかんともし難い無意識のエネルギーの支配下」の世界である。そこで、「やみくろ」の場合は象徴的に「闇の力と折り合いをつけ」ようとする。あるいは「井戸」の場合なら、「恐ろしい夜の海の旅」をする。(竹端さんのブログ記事より引用)
 
 村上春樹はそうやって、時間と空間の限定性を超えて、普遍的無意識としての物語世界の元型にアクセスし、そのなかでの「試練と啓示に満ちた恐ろしい夜の海の旅」を提示し続けるから、英語で読んでも日本語で読んでも違和感なくその物語世界に入ることが出来、かつ世界的な読者層を持つ作家として成功を収めたのだと感じる。(同上)
 
 読者は、その物語世界に没入することにより、普遍的な神話的構成を擬似的に体験することになります。「英雄の開いた小道」(『神話の力』p.264)をたどり、試練・啓示の過程を通り抜け、再生を果たすわけです。
 
 それゆえ、“神話的構成”をもつ文学作品には、強い訴求力が供わっているのです。
 
 [スルメブログ記事の要点:ここまで]
 
 
 “神話的構成”をもつ音楽作品
 
 上記のブログ記事を読んで、まず連想したことは、読み継がれている古典的文学作品にはこうした観点からよりよく理解できる作品が多くありそうだ、ということでした。
 
 シェイクスピアや、ギリシア悲劇などはその典型でしょう。
 闇の世界に呑み込まれ、夜の海を航海し、死と再生を遂げる。
 この構図が当てはまる作品がいくつもあります。
 
 そして、この構成は、オペラの筋書きの原型であることに思い至りました。そもそも、オペラはギリシア悲劇を題材にすることが多いので、当然といえば当然のことかもしれません。
 
 神話的構成を持つオペラの例としては、バロック初期の、ギリシア神話を題材にした、≪エウリディーチェ≫≪オルフェオ≫があります。モンテヴェルディの≪オルフェオ≫は、死んだ妻を取り返しに、黄泉の国まで降りていく、という筋書きです。
 オルフェウスの神話を題材にしたオペラは、グルックやハイドン、オッフェンバックらも書いており、オペラの定番ともいえます。
 
 また、フランス革命の頃に登場した、「救出オペラ」というタイプもあります。ベートーヴェンの≪フェデリオ≫が最も有名でしょう。不正に投獄された人物を救出する、という筋書きです。専制政治の打破、というテーマと、闇の世界を潜り抜けて格闘の末再生を果たす、という神話的モチーフとが融合されたオペラです。
 
 さらに、形式的な観点からは、オペラの序曲から派生的に成長してきた交響曲にも、神話的筋書きがあるものがあり、その訴求力ゆえに、現在でも頻繁に演奏されている作品群があることに気付きました。
 
 その代表格が、ベートーヴェンの交響曲第5番≪運命≫でしょう。
 第1楽章で奈落の世界に落ち、第2、第3楽章で闇の世界の試練と格闘し、啓示を受け、第4楽章で再生を遂げ、喜びに満たされる。
 まさに、神話的力が宿っている交響曲です。
 ベートーヴェンの第9交響曲もそうでしょう。
 
 こうした構成の交響曲は、他にも、ブラームスの交響曲第1番や、サンサーンスの交響曲第3番が思い浮かびます。
 この両者とも、≪運命≫と同じ調性、ハ短調を選んでいることから、かなり意識的に、≪運命≫の系譜を継ぐ曲を書こうとしていたことが伺えます。
 また、サンサーンスの交響曲第3番からは、夜の海の航海が、天上界と繋がっていることを感じさせる第2楽章もあり、人類の原型的思念を喚起させているように思えます。
 
 「交響詩」の分野を切り拓いた、リヒャルト・シュトラウスの諸作品も、この視点から見ると、理解が深まると思います。
 シェイクスピアの戯曲を題材にした≪マクベス≫や、≪英雄の生涯≫、≪死と変容≫、≪ドン・キホーテ≫、ニーチェに基づく≪ツァラトゥストラはかく語りき≫など、人類のの深層の精神史と深いかかわりのあるテーマ―英雄・死・超人など―が、雄弁なオーケストレーションによって描かれています。
 また、オペラでは、ギリシア悲劇を題材とし「復讐」をテーマとした≪エレクトラ≫、オスカー・ワイルド原作の≪サロメ≫など、劇的な物語の展開を有する作品を創作しています。
 これらの作品からは、神話的構図の要素を感じる場面がしばしば立ち現れます。
 これらの作品群も、人類の普遍的な無意識から霊感を得て、でき上がってきたものなのでしょう。
 
 身体や潜在意識の感受性が高まった状態で、冥界の原型的構図―神話的構成―を汲み取り、闇の世界、負のエネルギーとあえて格闘する。そして、その世界と触れ合うことが、作品に深みを増す。
 そのようなこと―「神話の力」を引き出すこと―が、芸術作品の創造には伴うことがあるように感じます。
 
 竹端さんの「神話の力」の観点は、それゆえ、私にはとてもすんなりと了解できたのでした。
 
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