08 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30. » 10

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ケプラーの「惑星の音楽」とガッフーリオの「惑星の旋法」 

Posted on 06:25:01

 
 前回のブログ記事で、ルネッサンス期の音楽理論家、フランキーノ・ガッフーリオの発想、「惑星と旋法との照応」の構図を紹介しました。
 今回は、その発想と、ケプラーの「惑星の音楽」とを比較してみようと思います。

 
 ガッフーリオのおよそ100年後、音楽理論の研究家でもあった天文学者、ヨハネス・ケプラーは、1619年に、大著『宇宙の調和』を著します。
 この書物では、天文学と音楽理論が探究され、ケプラーの第3法則もこの著作内に記述されています。そしてその第5巻において、「惑星の音楽」が譜面入りで書かれています。
 

Kepler\'s Music of Planets
(ヨハネス・ケプラー、岸本良彦訳『宇宙の調和』、工作舎、2009年、p.451)
 

 惑星の運行のみならず、音楽の旋法に関しても研究していたケプラーが、当時の有名な音楽理論家のガッフーリオを知らなかったとは考えにくく、おそらくは彼の「惑星と旋法との照応」の図式を知っていたことでしょう。
 ケプラーは、ガッフーリオと、宇宙観と音楽観においては対立していますが、天体と音楽とを結びつけて考える、という発想法は共有していたようです。
 天動説の枠内にいたガッフーリオに対して、ケプラーは地動説(太陽中心説)を支持します。さらに、惑星軌道が円軌道ではなく、楕円軌道であることを示しました。
 それゆえ、ケプラーの「惑星の音楽」には、太陽や恒星天球の音楽はなく(動かないため)、地球の音楽が替りに入りました。また、音の高さに関しては、土星が最も低音で、水星が最高音を発します。一方、ガッフーリオは、遠い惑星ほど高音を発する、と考えていました。
 想定している音律は、ガッフーリオがピュタゴラス音律であった(3度と6度の協和を認めなかった)のに対して、ケプラーは純正律です。
 そしてケプラーは、楕円軌道論の研究者にふさわしく、各惑星の、近日点と遠日点における速度(太陽から見た角速度)の「比」に応じた音階を、各惑星が奏でる、としたのです。
 楕円軌道は、等速ではありません、太陽の近くでは速く、太陽から離れると遅く運行します。その速度変化と、音楽とを対応付けたのでした。
 したがって、ケプラーの「惑星の音楽」は、ガッフーリオの「惑星と旋法との照応」の図式を、地動説と楕円軌道の宇宙像のもと、換骨奪胎した発想である、といえるでしょう。
 ただし、ケプラーは、「惑星と旋法との照応」の根幹の発想を否定はしていませんでした。なぜなら、ケプラーもまた、それぞれの惑星の音楽に対して、対応する旋法を指定しているからです。
 例えば、土星の音楽に関しては、「慣用の旋法の7番目か8番目を当てる。その基音となるキイをGとすると、近日点運動はhへと上昇するからである」(同書、p.452)と述べているので、ミクソリディア旋法またはヒポミクソリディア旋法を念頭に置いていることがわかります。同様に、ケプラーの音楽では、以下の対応が記されています。
 
 木星―ドリア旋法またはヒポドリア旋法
 火星―リディア旋法またはヒポリディア旋法
 地球―フリギア旋法またはヒポフリギア旋法
 金星―適する旋法はないが、音組織からは、フリギア旋法またはヒポフリギア旋法
 水星―あらゆる旋法
 
 ケプラーの場合、惑星と旋法とが1対1対応しているわけではなく、惑星には固有の音楽(スケール)があり、その音楽がどの旋法の上に乗るか、ということを語っているわけです。
 したがって、ガッフーリオに似てはいますが、ケプラーの「惑星の音楽」は、楕円軌道論をベースとした創造的な発想とみなすべきでしょう。その背後に、古代ギリシア以来の伝統的な準拠枠、「宇宙と音楽との照応」の暗黙の了解が控えていることは、言うまでもありません。
 
 ケプラーとガッフーリオが示した図柄は、天文学と音楽の歴史が、実に複雑に絡み合って展開してきたことを如実に示す一事例でありました。


関連記事
スポンサーサイト

テーマ - 星・宇宙

ジャンル - 学問・文化・芸術

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/225-5ab3355c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック