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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

転調が暗示すること 

Posted on 10:05:30

 
 最近、私は、オーボエ・ソナタ<八ヶ岳南麓の秋>という曲を創作しました。
 その際、提示部と再現部の2つの主題に関して、調性関係において、古典派のソナタ形式のパターンを踏襲しました。
 その作曲の過程で、転調に関してめぐらした思考を、ここに記しておきます。

 
 古典派のソナタ形式の内的構造を確認するため、音楽史や作曲法の参考書を何冊か当たったところ、小鍛冶邦隆氏の『作曲の技法』の中で、気になる表現に出会いました。
 小鍛冶氏はその著作の第2章「ソナタ形式のラビリンス(迷路)で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ ハ短調作品10-1を素材にして、ソナタ形式の分析をしています(小鍛冶邦隆『作曲の技法』音楽之友社、2008年)
 そして、そのピアノ・ソナタの再現部において、古典派のソナタ形式の慣習的範例からの逸脱がみられることを指摘して、その転調の様子を、「迷路化」と表現しています(p.49)
 確かに、ベートーヴェンのその作品の再現部では、転調に伴ってどこに連れていかれるのかわからない感触があるので、不適切な喩えとは言えないでしょう。
 しかしながら、「迷路」という殺風景な比喩的表現は、私が抱いている転調に対するイメージとは相当かけ離れている、と感じました。
 私は転調を、「芳醇なる変容の世界」と認識しています。
 そこで、私は作曲の過程で、転調にどのような事柄を託しているのかを、振り返ってみました。
 
 さて、冒頭に挙げたオーボエ・ソナタ<八ヶ岳南麓の秋>では、提示部での第1主題と第2主題の調性を、[ニ短調/ヘ長調]と設定しました。平行調の関係です。
それに対し、再現部では、2つの主題の調性は、[ニ短調/ニ短調]と、調性での対立は解消されています。
 結局、古典派の短調のソナタ形式のお手本通りの調性関係を選んだわけです(モーツァルトの2つの短調の交響曲のパターンと同じです)
 ただし、長調と短調との間の微妙な移行・駆け引きのような転調は、随所に設定しておきました。凝った転調は、この作品の曲調に合わないので、避けました。
 この作品は、風景画のような楽曲です。私はこの曲の中で、微妙な移ろいゆくような転調を描きましたが、その転調に、「景色の淡い変化」を託したつもりです。
 八ヶ岳南麓の山中を歩きながら、明るい展望が開かれたり、鬱蒼とした茂みに入っていったり、といった情景の変遷です。そして、それに伴って、人間の心身の状態も変化することでしょう。
 音楽における転調は、風景の模様を変えます。そのことは、小鍛冶氏も感じているようで、上記の「迷路」の解説中に「危うい眺望」という表現も用いられています(同上)
 ベートーヴェンの<エグモント序曲>でも、再現部においてソナタ形式の定石からの「迷路」のような逸脱が見られますが、そこでは、物語の「場面の転換」が意図されているように思われます。
 やはり、情景の変貌と転調とが連動しているのです。
 
 また、転調によって、「心境の変化」を表現することもあります。
 最近スコアを仕上げた<時の波>という管弦楽曲を例にとります(9月末に公開しました)
 こちらの作品では、海岸の波打ち際で、打ち寄せる波音を聴きながら、自分の人生をゆっくりと振り返り、来し方行く末に想いを寄せる様子を描いてみました。
 この曲では、複雑な和声を伴った凝った転調が、楽曲の節目節目に現れます。その転調に私は、人生における転機に「新たな心境」を抱き、人間的に変容を遂げてきた様子を託しました。
 あるいは、モーツァルトの交響曲第40番の第4楽章展開部では、疾風怒濤のような転調の嵐が訪れますが、そこでは、精神状態の変容、狂気への接近と正常への回帰の波動、が籠められているように感じます。
 
 このように、音楽作品における転調とは、作曲家がさまざまな意味を託して表現するものだと思います。
 聴き手が作曲者の想いを同じように汲み取るのは困難でしょうが、類似の何物かを感じ取ることは、ある程度はできるであろう、と私は想像しています。
 聴き手の解釈は聴き手次第ではありますが、それでも、作曲者から聴き手へと、何らかの事柄が届くであろう、と、私は信頼を寄せています。


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