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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

音楽は、世界に対する平衡感覚も涵養する 

Posted on 11:04:30

 
 音楽の起源や本質を検討するにあたって、生物学的視座からの考察が重要な論拠を提供するであろうことは、「進化音楽学」という新分野では了解事項となっています。
 今回は、耳の解剖学的知見や、耳の系統発生への洞察が、音楽の本質を考察するための手がかりを提供している、という話をします。

 
 耳という器官の最も重要な機能は、いうまでもなく、「音を感じ取ること」です。音の高さや強さ、持続の長さ、音源の方向、などを捉えていきます。
 そうした「聴感覚」は、内耳にある「うずまき管(蝸牛)」の内部構造である、「コルチ器官」で感受されています。外耳道・鼓膜・耳小骨などを経由してきた音波の振動は、最終的に、コルチ器官での基底膜の振動となり、その振動を、聴細胞が受容しているわけです。
 ところが、耳のもっている機能は、「聴感覚」だけではありません。
 耳には、うずまき管に隣接して、「前庭」と「半規管」があります。前庭では、身体の傾きや、水平・垂直方向の加速度を感知します。半規管では、身体の回転を感知しています。
 つまり、耳は「平衡感覚」をつかさどる器官でもあるのです。
 音楽を聴くという行為は、直接的には「聴感覚」に対する刺激を与えているわけですが、隣接している「前庭」と「半規管」の感受性も活性化させている可能性があるでしょう。おそらく、間接的に、身体の「平衡感覚」をも、音楽は目覚めさせていると考えられます。
 舞踊には音楽がつきものです。例えば、フィギュア・スケートでは必ず、演技中に音楽を流します。バレーでは、回転や傾きや加速の伴う動きを、オーケストラの演奏が支えます。
 舞踏と音楽との結びつきは、耳の解剖学的知見ときれいに対応しているのです。
 それゆえ、音楽は、外界の動きに対する「平衡感覚」も同時に覚醒させている、といえましょう。
 
 上記のような見方は、生物進化における「耳」の発達史に対する考察からも、補強されます。
 系統発生の観点から動物の解剖学的所見に対してさまざまな思索を残している形態学者、三木成夫氏は、脊椎動物における聴覚器官の変容過程を振り返って、次のように述べています。
 
「ところで、水中の時代では、水の振動が音であった。すなわち耳のはじまりは、潮の流れを感じ取る感覚器(側線器)ということになる」
(三木成夫『ヒトのからだ―生物史的考察』うぶすな書院、1997年、p.114)
 
 これは注目すべき指摘だと思います。
 耳、あるいは聴覚器官はそもそも、外界の変化を敏感にキャッチするための構造であった、と三木氏は示唆していると思われます。
 前庭と半規管という、身体の平衡感覚を統御する器官がうずまき管に隣接しているのも、機能的に見れば必然でしょう。それら三者が協働して、世界の変動を感じ取り、それに対してバランスを取ろうとしているわけです。
 
 したがって、「音楽は世界に対する感受性を高める」という命題は、解剖学的・系統発生的視座からも、肯けます。
 音楽の刺激によって、世界に対する平衡感覚が涵養されるからです。
 音楽表現の重要な一つの柱に、「宇宙や自然を描写する」という志向性がありますが、それは音楽の持つこうした機能と深い関わりがあるであろうと考えられます。

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