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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

「音楽の起源」を考察する枠組をめぐって 

Posted on 09:11:16

 
 近年、「進化音楽学」という研究領域ができつつあるようです。音楽の起原や音楽の本質などに関して、生物進化論の視点からアプローチしていく分野です。
 この新分野に関連する書物に目を通しているうちに、その研究方法に何か抜け落ちているものがありそうだと感じるようになりました。それが何であるかが、おぼろげながら見えてきたので、ここに記しておくことにします。

 
 さて、「進化音楽学」には、主な個別テーマとして、次のような課題があります。
・音楽の起源
・動物の歌とは何か
・音楽の進化を引き起こす淘汰圧
・音楽の進化とヒトの進化
・音楽の進化と言語の進化との関係性
・拍子の進化、など
(ニルス・N・ウォーリン他編著、山本聡訳『音楽の起源・上』人間と歴史社、2013年、第1章「進化音楽学とは何か」より)
 
 そして、上記の著作では、進化音楽学において現在用いられている、主な研究方法が紹介されています。方向性としては、実証的な生物学の枠組に準じているようです。
 まず、動物の歌とヒトの音楽との比較分析では、歌の音響学的解析や、神経生物学的研究や、行動生態学的研究がなされています。
 音楽の起源や進化の探究においては、化石人類の発声器官や脳の構造の分析、音楽に関した人工遺物の研究がなされています。つまり、自然人類学や考古学と同様な研究方法が導入されているわけです。
 音楽の進化と言語の進化との関係性をめぐっては、認知心理学的アプローチとともに、脳の構造的・機能的画像分析の技術が導入され、音楽や発話の情報処理メカニズムの解明が目指されています。
 音楽や言語の諸機能が、脳のどの部位に局在しているのかについての情報が得られつつあるほか、音楽や言語に関する男女の性差や、音楽トレーニングによる機能的変化などについても、脳画像分析という手段が有効に用いられています。
 このように、進化音楽学では、主な手段として生物学的方法を活用して、音楽の起源や進化を探っていこうとしているのです。
 
 上述のような、音楽に対して生物学的視座から考察していく、という枠組に関しては、私は異論ありません。
 もちろん音楽は文化的産物ですから、比較文化論的・文明史的アプローチは不可欠です。宗教や哲学や舞踊などの、様々な文化の起源も当然絡んでくることでしょう。
 それに加えて、従来の音楽史ではほぼ扱ってこなかった、ヒトを生物進化の所産として捉える観点が交差してくれば、音楽に対するより深い理解が得られるのではないか、と期待できます。
 ところが、上記のような研究枠組では、「生物学的視座」として不備があるのではないか、と感じるようになりました。
 人間を生き物として見ると、各種の器官系が統合された有機体として存立しているといえます。その器官系のうち、進化音楽学が着目している主な器官は、脳・神経系と感覚器官であります。音楽の生成や音楽の感受に関して、直接かかわる器官ですから、それらの外胚葉性の器官に注目するのは当然といえるでしょう。
 しかしながら、それだけでは音楽の進化や音楽の本質を考察するには不十分なのではないか、と私は考えます。
 音楽におけるメロディーラインの湧出や、リズムの生成は、内臓や、呼吸器系、循環器系と深い関わりがありそうだと直観されます。
 音楽のリズムは、心臓の拍動や、呼吸のリズムと分かちがたく結びついているであろうことは、想像に難くありません(呼吸器系は、発生のための器官として進化音楽学の枠組で多少は考慮されています)
 さらに、作曲において、旋律が湧き上がってくる状況は、腸管の蠕動運動と関わっているかもしれない、と感じています。
 どちらも不随意な運動です。腸管での消化活動が、本人の意思によらずに勝手に行われていくように、メロディーラインも、おのずと生成してくることがあります。また、内臓が人間の情動と深いところで結びついているであろうことは間違いないでしょう。
 それゆえ、音楽の起源や音楽の本質を生物学的視座から検討しようとするならば、内臓や呼吸器系・循環器系、すなわち内胚葉性・中胚葉性の器官にも着目し、それらの器官系の系統発生的変遷を考慮に入れる必要があるのではないでしょうか。
 音楽は、(三木成夫氏の言う)動物性器官のみで成立するものではありません。植物性器官が背後で協働することにより、生成してくるものです。
 
今回のブログの発想は、次の書物を通覧している折に訪れたものです。
三木成夫『ヒトのからだ―生物史的考察―』うぶすな書院、1997年。
 
 私から見ると、音楽の根源的な部分に対する洞察が不十分なまま、進化音楽学のパラダイムができつつある、というように映ります。
 今後の修正に期待したいところです。
 
もしも、私の指摘が的外れではなく、進化音楽学の研究枠組に不備があるとするならば、それはおそらく研究者たちが理論的考察に偏りすぎてしまっているからではないか、と推察されます。音楽を演奏したり作曲したりする、実践的研究者がこの分野に参与してくれば、こうした不備はおのずと解消されていくかもしれません。


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