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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

三木形態学を継承した西原進化学―『生命記憶を探る旅』を読んで― 

Posted on 11:38:10

 
 今から30年ほど前、私は、ヘッケルの「生物発生原則」をテーマとして修士論文を書きました。そのころから、個体発生と系統発生の双方が、人間の在り方を深いところで規定しているのだろう、と見当をつけていました。

 
 そのような、ヘッケル仕込みの人間観・生命観の枠組を、三木成夫氏と、西原克成氏は共有しています。
 
西原克成『生命記憶を探る旅―三木成夫を読み解く―』(河出書房新社、2016年)
 
 この書籍に書店で出会った際、大学院時代の問題意識がよみがえってきました。当時、生物進化に根差した生命哲学を構築してみたい、という大それた野望を持っていたことも想い出しました。その生物進化を理解するには、ダーウィンの自然選択説を軸とすべきではなく、ラマルクとヘッケルの学説が鍵となるだろう、と漠然と展望していました(私は、科学史研究においては、30代にヘッケル研究からラマルク研究に転じました)
 この著作では、ヘッケルの「生物発生原則」以来の比較形態学・比較発生学を継承した三木成夫氏の学問的成果をベースとして、ラマルク譲りの「用不用の法則」の現代版を援用した西原克成氏の重力進化学説が、実験的根拠や多くの観察図譜をもとに、展開されています。
 私が大学院時代から待ち望んでいたような書物でした。
 内容豊富で、論点が多岐にわたるこの本の中から、私の専門分野である生物学史と関連の深い議論を拾い出して、少々コメントしてみたいと思います。
 
 第2章「ダーウィニズムからの脱却」において、西原氏は、ダーウィンの自然選択説が生物進化の限定的な場面、些末な局面しか説明しえないことを指摘しています。その指摘に、私も同意します。
 進化の歴史上最大級の事件である、真核生物の誕生をめぐる「共生説」は、ダーウィン流の分岐と自然選択の準拠枠には収まりません。脊椎動物の誕生や、脊椎動物の上陸といった「大進化」に関しても、ダーウィンの学説は説得力に乏しいと私も感じていました。
 また西原氏は、一部の研究者の間ではダーウィニズムが批判に耳を貸さない神学的な「教義」となってしまっていることも語っています。「ダーウィン信者」が生物学者の中にはかなり存在しているらしいことを、私もうすうす感じています。
 そして、生物学史研究者として私が最も感心したのが、ラマルクとヘッケルを、今日の生物学の観点から適切に評価していることでした。
 ラマルクの「用・不用説」、生物がよく用いる器官は発達し、使われなくなった器官は退化する、という学説は、「獲得形質の遺伝説」とペアで考えられていたため、「獲得形質の遺伝説」が否定されると「用・不用説」の評価も芳しくなくなりました。
 ところが、「用・不用説」は、(温熱・重力・水や空気などの)環境要因や(新たな習性などの)生体力学的な刺激によって、眠れる遺伝子が活性化される、という図式で解釈が可能です。したがって、ラマルクの進化要因論は、トンデモ学説ではなく、十分検討に値する学説と判断すべきでしょう。
 その図式が正当であることの実証例を、西原重力進化学はいくつも提示しているのです(例えば、両生類アホロートルの陸上げ実験による、皮膚呼吸・赤血球造血の活発化。pp.128-134。あるいは、筋肉内に移植したセラミックス人口骨による骨髄造血組織の誘導。pp.163-170)
 一方、三木氏と西原氏はともに、胎児の生育過程(個体発生)における、人間という種が進化してきた歴史(系統発生)との具体的対応例を、見事な描図で示しています(例えば、胎児はある時期、舌と心臓とがつながっていますが、それは先祖形態であるネコザメの成体にも見られます。p.130の図。あるいは、胎児の顔立ちが、32日目から38日目にかけて、サメに似た顔から両生類・爬虫類を経て、哺乳類の獣の顔に似てきます。pp.126-127の図)
 つまり、ヘッケルの生物発生原則、「個体発生は系統発生を繰り返す」という命題が、大局的には誤りではないことを、説得力をもって示しているのです。
 ラマルクもヘッケルも、彼らの時代の生物学の水準からすれば、実証主義的な研究とは必ずしも言えない内容を多く書き残していますが、彼らが洞察していた生命に対する壮大な見方の中心は、本質を射抜いていた、と、私も了解しています。
 
 西原氏の重力進化学は、ラマルクの進化学説の現代版「真正用不用の法則」(p.89)と、ヘッケルの「生物発生原則」、さらには三木成夫氏の「生命形態学」を基盤にしています。西原氏の進化学説の説得力によって、今後、ラマルク、ヘッケル、三木成夫氏らの再評価がなされるようになるかもしれない、と予感しました。


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