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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ピアノ五重奏曲の魅力 

Posted on 08:55:45

 
 弦楽四重奏の編成にピアノを加えた、「ピアノ五重奏曲」という曲種があります。
 今回は、このタイプの楽曲ならではの魅力について、語ってみます。
 私の愛聴曲も紹介します。

 
 室内楽の代表的編成に、弦楽四重奏があります。ヴァイオリン2本と、ヴィオラとチェロからなります。4人からなるこの編成は、和声進行の構造を十分に提示できる、最小限の組み合わせです。オーケストラのミニチュア版、といってもいいでしょう。
 そのシンプルな弦楽四重奏に、ピアノを加えたのが、ピアノ五重奏曲です。渋い、通好みといわれる弦楽四重奏の味わいと、ピアノの華麗さが融合している曲種なのです。
 弦楽四重奏では、4本の線の絡みが、明瞭に聴き取れます。内声部の織物の手触りがよくわかるのです。これは、大編成のオーケストラからは得難い顕著な特徴のひとつです。作曲家の編み上げた複旋律の生成展開過程を、かなりの明瞭さで追体験できるわけです。
 その弦楽四重奏を伴いつつ、ピアノが奔放に躍動するピアノ五重奏曲は、うまくはまれば実に聴き手を惹きつける楽曲となります。弦楽四重奏とピアノの相乗効果のもたらす独特の世界は、はまり込むと病みつきになるほどの魅力を秘めています。
 
 上記の2つの曲種の関係は、ピアノ協奏曲と交響曲との関係に似ています。
 交響曲向けの大編成オーケストラに、独奏ピアノを加えたのが、ピアノ協奏曲の編成です。そして、ところどころ、ピアノの名人芸的な技巧を凝らしたソロが披露されたり、ピアノとオーケストラの掛け合いや、両者の対決や融和が演出されたりします。
 それと同様に、ピアノ五重奏曲でも、弦楽四重奏を相手に、ピアノがソロをとったり、掛け合いをしたり、対比や和解の表現がなされたりするのです。
 したがって、あえて比例式を作成してみると、次のようになります。
 
 [ピアノ五重奏曲]:[弦楽四重奏曲]
≒[ピアノ協奏曲]:[交響曲]
 
 つまり、ピアノ五重奏曲は、ピアノ協奏曲の室内楽版というわけです。弦楽四重奏曲とピアノ協奏曲の双方の色彩がにじんでいるのです。
 ただし、ピアノ協奏曲と比べると、他のパートとの対決色は薄らぎます。ピアノ協奏曲では、大編成のオーケストラを相手にするため、どうしてもピアニストに多大なストレスがかかります。音量でも、精神的にも、オーケストラに負けるわけにはいきません。否が応でも対決します。
 それに比べるとピアノ五重奏曲では、対立感覚は優位とはならず、融和的で親密な空気が漂います。その両者が統合される感触こそが、ピアノ五重奏曲の最大の魅力かもしれません。
 人生や文明の在り方の理想として、様々な対立する要素(意識と無意識、善と悪、自然と文化、聖と俗など)が統合されるイメージを想定できます(この論点に関しては、前回のブログ記事「レヴィ=ストロースの音楽論(6)―人間の両面性―」をご参照ください)
 それらの暗喩のごとく、ピアノ五重奏曲では、対比的側面を孕みつつも、融和的・統合的側面にシフトした表現が展開されるのです。
 秩序的世界の表現を得意とする弦楽四重奏と、情念的内面世界の表出に長けたピアノとが、時に対立はするものの、大局的には協働して、融和的世界を描き出していくのです。技量に優れた作曲家の手にかかれば、素晴らしい芸術作品に仕上がることでしょう。
 
ピアノ五重奏:私の愛聴曲
 
 では、この曲種における、私の愛聴曲3曲(+番外編1曲)を、手短に紹介します(カッコ内に、CDのお気に入り盤を記しておきます)
 お奨め順です。
 
1.フランク作曲≪ピアノ五重奏曲≫ヘ短調、FWV7
(Fine Arts Quartet, Cristina Ortiz[Piano], NAXOS盤)
 フランクの格調高さ、品の良さが、遺憾なく発揮された作品です。とりわけ第2楽章の情熱を秘めた繊細さと気品は、絶品です。
 フランクの室内楽曲では、≪ヴァイオリン・ソナタ≫が有名ですが、それ以上の傑作だと思います。フランスの室内楽の粋、といっても過言ではないでしょう。
 初演でピアノを担当したサン=サーンスは、気に入らなかったらしいですが、会場にいた17歳のドビュッシー青年は、「これは確かに本当の音楽だ」と語ったそうです(『クラシック名曲ガイド④室内楽曲』音楽之友社、1995年、p.130)
 上記のナクソス盤のCDは、演奏が実に優美で、フランクらしさをうまく引き出しています。また録音状態も良いです。
 この曲を聴くと、フランクが目指していたであろう理想の音楽世界と、私が作曲で追究している音楽世界の理想の境地とが、かなり似ていると、つくづく感じます。私との相性の良い作曲家なのでしょう。
 
2.フォーレ作曲≪ピアノ五重奏曲第2番≫ハ短調、作品115
(ORTF Quartet, Germaine Thyssens-Valentin[Piano], Charlin盤)
 フォーレ晩年の、祈りのこもった作品です。私は、聴き込むごとに、作品世界に没入し、陶酔していきました。
 各楽章とも、細部まで丁寧に描き込まれた細密画のようで、音楽的内容の濃さを感じます。なかんずく、対位法の見事さに感嘆します。緊密に織り込まれたタペストリーを思わせます。
 熟成を遂げた芳醇なブランデーのような、奥深い味わいがあります。第3楽章の玄妙なる境地には、体がしびれてくるようです。
 上記のシャルラン盤CDの演奏は、ワンポイント録音らしく、自然な音の拡がりと温もりが感じられます(ヘッドフォンで聴くとよくわかります)。素直な、奇をてらわない演奏が、フォーレ独特の世界観と調和しています。
 
3.シューマン作曲≪ピアノ五重奏曲≫変ホ長調、作品44
(Guarneri Quartet, Artur Rubinstein[Piano], BMG盤)
 ロマンティックで耳に馴染みやすい旋律が心地よい曲です。とくに、第1楽章の第2主題、チェロの奏でるメロディーは素敵です。
 4楽章の構成が整っていて、各楽章の内部構成もバランスが良く、作品としての完成度が高いと感じます。
 上記のCDの演奏は、5人が親密に、楽しそうに語り合っているようです。ピアノと第1ヴァイオリンが出しゃばりすぎず、5人が対等に演奏しているため、落ち着いた安らぎ感があります。
 79歳のルービンシュタインのピアノは、派手すぎず、中庸を心得た、円熟の境地を感じさせます。
 
番外編:モーツァルト≪ピアノと管楽のための五重奏曲≫変ホ長調、K.452
(English Chamber Orchestra, Mitsuko Uchida[Piano], PHILIPS盤)
 ピアノ五重奏曲ですが、ピアノ以外は管楽器(オーボエ、クラリネット、ホルン、バスーン)の編成です。それでもやはり、ピアノ協奏曲の室内楽版の風情があります。
 モーツァルトのピアノ協奏曲では、木管楽器とのやり取りが頻繁になされるシーンが多々あります(とりわけ、K.453)。その味わいが、このK.452ではより濃厚に感じられます。モーツァルトらしいバランスと調和の世界が展開していきます。
 上記のCDは、温和な音色の木管楽器と、穏やかな内田光子のピアノとの掛け合いが絶妙で、愉悦をもたらしてくれる演奏です。
(私が2017年1月の上旬に公開した自作曲、ピアノと管楽のための六重奏曲<山の霊>は、当初はモーツァルトのこの曲の編成をモデルとして作曲を始めた作品です。作曲中、作品構成上の事情により、フルートを追加しました)
 
まとめ
 
 4作品とも、対比と調和の妙が、楽曲の命綱となっている、と聴き直してあらためて感じました。
 ピアノ五重奏曲という曲種の魅力は、そのあたりを淵源としているのでしょう。


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