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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

ヴァーグナーと12音技法との本質的相違 

Posted on 17:26:17

 
 一般的な音楽史において、ヴァーグナーと12音技法との結びつき、あるいは連続性が、しばしば語られます。
 しかしながら、両者の間には、音楽創作の観点から見ると、決定的な相違があるように、私には感じられます。
 今回は、その話をします。

 
 手元にあるグラウトとパリスカの『新西洋音楽史』には、ヴァーグナーの「後期の作品の和声語法が調性の解体を早めることになった」と記述されています(グラウト/パリスカ、戸田幸策ほか訳『新西洋音楽史・下』音楽之友社、2001年、p.113)
 あるいは、『音楽史を聴く』においては、ヴァーグナーのトリスタン和声や無限旋律の以降、「新ウィーン学派へと続く和声の崩壊が始まる」との指摘がなされています(200CD「音楽史を聴く」編集委員会編『200CD 音楽史を聴く』立風書房、1996年、p.160)
 ヴァーグナーは、不安定な響きをもつ不協和音を連続的に多用しました。その不協和音は、和声進行とてして多数の種類の異なる和音へと進行する可能性を孕み、いつまでも和音は解決せず、転調も繰り返されていきます。そのため、漂流する旋律が、無限に継続していくように感じられます。それが、「無限旋律」です。
 ヴァーグナーの楽劇≪トリスタンとイゾルデ≫のおよそ半世紀後、第一次世界大戦直後に、シェーンベルクらが、「12音技法」に基づく、主音や調性のない音楽を創作し始めました。12音技法とは、1オクターヴの12の半音を、すべて同等に用いる作曲法です。
 確かに、音楽理論の遷移の観点からは、ヴァーグナーの調性崩壊寸前の複雑な和音や和声進行と、新ウィーン学派が開拓した無調性の「12音技法」との間には、連続した結びつきをみることができます。
 
 しかし、この両者の結びつきは、理論上の類似性であり、「聴く側」の立場から感じられる表層的な類似性にすぎないように、私には思われます。
 音楽を創作する観点からすると、ヴァーグナーの管弦楽法と、20世紀の12音技法とのあいだには、決定的な相違があります。それは、作曲過程における、意識と潜在意識の関わり方の違いです。
 ≪トリスタンとイゾルデ≫の「前奏曲」に典型的に現れる、彷徨する旋律と玉虫色の和声には、精緻な理論的な構築の側面と、自然発生的な湧出的側面が宿されているように感じられます。おそらくは、潜在意識から迸り出るモチーフないし和声を、ヴァーグナー独自の音楽学理内で処理した結果、誕生してきた産物なのでしょう。
 つまり、意識的構築と潜在意識からの自然発生とが協同して、ヴァーグナーの作品は形成されたといえます。
 その一方、12音技法では、19世紀までの調性音楽の臭いが現れないように、厳格なルールを決めて、数学的なパズルを解くようにして、作曲がなされます。無調性の音楽は、ほぼ、意識的構築のみで形成されていくのです。作曲家の無意識的感性の蠢きの表出は、周到に封じ込められています(ただし、こうした技法が発案された背後には、第1次世界大戦頃の混迷のヨーロッパ社会の時代思潮の無意識的な影響があるとは思いますが)
 その意味で、12音技法に基づく音楽は、作曲家が本当に心の底から作りたい音楽ではなくなってしまっているように私には思われます。
 
 音楽を創作する過程において、作曲家は自らの潜在意識を通じて、おそらくは人類の集合無意識や動物や植物、自然界や宇宙と深く交感します。それらの底層流から流出してくる未分化な形にならない息吹を、ある一定の枠組に収めて構築していくのが、作曲の醍醐味であると、私は感じています。
 ヴァーグナーの音楽においては、まさにそのような過程を共に経験できます。
 それに対して、無調性の12音技法の作品においては、潜在意識からの息吹が感じられません。人間精神や世界を、人々の琴線に触れるように表現ができているとは言えないと思います。
 このように、潜在意識の介在する程度が、ヴァーグナーと12音技法とでは、決定的に違うのです。
 この両者の本質的相違を無視して、連続性を語ったとしても、その結びつきは表層的なものにすぎないように、私には思われます。


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