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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

サッカーとオーケストラ(2)―管弦楽曲にみられる縦パス・横パス・バックパス― 

Posted on 10:50:11

 
 前回のブログ記事では、これらの競技と演奏との間に、相似た構造的秩序があることを指摘しました。
 両者はともに、[高・中・低]の構造的階層性を有しています。その役割分担にもある程度の対応がみられます。そして、その役割はどちらも、流動化することがあります。
 また、各グループ間のバランスとコンビネーションが大切だという点も、共通しています。

 
 さて今回は、そのコンビネーションに関する類比的な構図を取り出してみたいと思います。
 サッカーでみられる、パスの典型的なパターンに対応するオーケストラ演奏の一連の動きが、確実に存在します。それらはかなり頻繁に出現します。
 その実例を、以下に提示していきます。
 
【縦パス】ハイドン/交響曲第94番第4楽章、第2主題の冒頭
 

ハイドン/交響曲第94番第4楽章、第2主題
(全音楽譜出版社のスコアより、クリックで拡大)
 

 ソナタ形式の楽章で、第1主題がト長調、第2主題がニ長調です。
 1小節の休止後、チェロ(Vc)とコントラバス(Cb)のピツィカートで再開し、半拍の後に第2ヴァイオリンに引き継がれ、第1ヴァイオリンのアウフタクトで始まる第2主題に引き継がれます。この間、木管と金管は休みです。
 わずか1秒ほどにあいだに、低音域から高音域へと、音が受け渡されていきます。
 この音の連鎖は、ディフェンダーからミッドフィールダーを経て、フォワードへと一気に縦パスが渡った状況と類比的です。新たな主題(試合の局面)が始まった、と実感させてくれます。
 視覚的にも、状況の変化の観点からも、両者は似ているといえるでしょう。
 
【横パス】モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番第3楽章、第2主題の開始から20小節ほどの間
 

モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番第3楽章、第2主題
(Eulenburgのスコアより、クリックで拡大)
 

 こちらもソナタ形式の楽章で、第1主題が変ホ長調、第2主題が変ロ長調です。
 上の譜例は130小節目からですが、第2主題は2小節前、128小節目から始まっています。ピアノ(Klav)による第2主題は、クラリネット(Cl)に手渡され、さらにフルート(Fl)の煌めくようなパッセージに引き継がれたのち、再びピアノに戻されます。
 高い音域で、旋律が次々と引き継がれています。ここでは横パスが、主役から脇役へ、脇役から脇役、さらに脇役から主役へと流されています。目先を変えて、次の展開を待っているのです。
 実際、147小節目以降、主役のピアノが16分音符で17小節続けて華麗なシークエンスを披露します。横パスが続いた後は、決定的な仕事がなされる可能性が秘められているわけです。
 ここでも、視覚的に、かつ状況的に、両者は類似しています。
 
【バックパス】チャイコフスキー/交響曲第5番第2楽章、副次主題の開始から8小節ほど
 

チャイコフスキー/交響曲第5番第2楽章、副次主題
(音楽之友社のスコアより、クリックで拡大)
 

 上段2小節目、オーボエ(Ob)のソロで始まる嬰ヘ長調の副次主題は、ホルン(Hr)の合いの手が入った後、似た音型で、クラリネット(Cl)、バスーン(Bn)と引き継がれ、ダブルベース(DB)にたどり着きます。順次、音域が下がっていき、最低音域に戻されています。 ここで一旦、楽曲は落ち着きます。その後、旋律が再開されていきます。
 バックパスでゲームを落ち着かせたのち、攻撃が再開される状況に対応していると見ることができるでしょう。
 この譜例の次のページでは、チェロが主旋律を朗々と奏でていきます。守備的選手の攻撃参加とそっくりです。
 ここでもやはり、視覚的、かつ状況的に、両者は類似しているのです。
 
 このように、オーケストラ作品の進行過程において、縦パス・横パス・バックパスに相当する一連の動きが登場することがしばしばあります。そして、それらの担う機能が、サッカーのそれらの機能にある程度対応しているのです。これは何とも興味深い照応関係だと私は感じます。
 
 ではなぜ、このような対応がみられるのでしょうか。
 「パス」とは、人類学的な観点からは、「贈与」に相当するのでしょう。その贈与にいくつかのパターンがあり、人間社会における贈与の諸類型を両者ともに反映しているため、結果としてこのような照応関係が現れ出たのではないでしょうか。
 やはり、サッカーとオーケストラはともに、神話的機能を有している、と考えてよさそうです(前回と同じ結論に達しました)
 
3つの譜例は、私の記憶を頼りに、典型的と思われる事例を選択しました。その結果、意図せずして、3つとも第2主題または副次主題の開始部分となりました。考えてみると、第1主題はヴァイオリンが継続して主旋律を担当することが圧倒的に多く、パスがあまり出てきません。それに対して、第2主題では、第1主題との対比が考慮されることもあり、様々なパスが出てくるのでしょう。そのパスの類型に関する考察でした。


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