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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

「絶対音楽」への疑問―絶対音楽の相対性― 

Posted on 06:58:55

 
 19世紀半ばのドイツで、「絶対音楽」という考え方が登場しました。ヴァーグナーとハンスリックとの論争の過程で、ハンスリックはこの用語を肯定的に用いました。
 リストの交響詩などの「標題音楽」と対になる概念で、自然の情景や文学作品の表現などから切り離された、純粋な音楽表現を目指した音楽が、「絶対音楽」です。ハンスリックは、ブラームスの交響曲をその代表例と見做していました。

 
 この概念は、標題音楽に対してだけではなく、オペラや歌曲などの歌詞を伴う声楽曲に対しても、交響曲に代表される純粋な器楽曲が音楽的に優れることを主張する一環として、提起されました。音楽の「自律性」を重視し、表現する対象なしで音楽世界が完結することに、音楽の芸術性の高さを見出したのです。
 逆に言えば、標題や文学や絵画などに音楽作品が従属することを嫌った、という側面があるでしょう。
 
 「絶対音楽」という構想に当時の評論家や音楽家が託した想いは、ある程度は理解できます。
 しかしながら、この理念に含まれる核心的部分に、私としては違和感を抱いています。二つの点に、疑問を感じているのです。
 一つは、他の芸術諸分野から「自律的」な音楽作品がありうるだろうか、という点です。もう一つは、表現する対象なしの創作が可能か、という点です。
 
 一つ目の点に関して。
 ゲーテの文学作品を題材にした、リストの≪ファウスト交響曲≫と比較すれば、確かにブラームスの交響曲には、文学や絵画の直接の介入は見当たらないかもしれません。とはいえ、ブラームスが音楽世界にのみ関わり、ほかの芸術諸分野と無縁の生活を送っていたとは考えにくく、様々なルートで間接的に、彼の音楽作品の形成に文学などが影響を及ぼしていた可能性があるでしょう。
 音楽が歴史的・社会的に形成されてきた文化の一形態である以上、「自律的」音楽が存在する、などというのは、幻想に過ぎないのではないでしょうか。あくまで、相対的な観点から言える程度であり、「絶対」という形容とは相容れないと思います。
 
 二つ目の点に関して。
 私は日曜作曲家として、生き物や自然界の情景などを音楽で描写するのを好みます。その意味で、私の創作曲は、ほとんどが「標題音楽」といえます。とはいうものの、音楽でそれらを描写する際には、私の心身のフィルターを通過するため、否応なく、私の精神が反映します。よって、創作作品は、白鷺のような標題と、私の精神の構造やゆがみとが絡み合って生成してきた産物です。
 それと同様に、「絶対音楽」にも、作曲者の精神が確実に反映されるでしょう。したがって、表現の対象物のない作品を作曲しているつもりでいても、自身の精神構造を無自覚のうちに表現している、ということになっているのではないでしょうか。
 また、純粋な交響曲において、「秩序」が提示されたり、「発展」が表現されたりしますが、これらの抽象概念も、表現の対象になっていると考えられます。したがって、具体的な対象物がなくとも、音楽で表現する対象が存在しないなどということはあり得ないでしょう。
 さらに言えば、なぜ、管弦楽を用いて、秩序があり変化がありエネルギーに満ちた音楽的世界を構築したいと欲するのでしょうか。それは、ほかならぬ我々を取り巻いている世界が、秩序や変化やエネルギーに満ち満ちているからなのではないでしょうか。
 結局、独立自存しているように見える音楽世界もまた、現実世界の暗喩になっていると考えられます。
(秩序や変化やエネルギーが、我々と無関係に世界に存在する性質かどうかはわかりません。しかし、少なくとも人間は、世界にそれらの性質を読み取ります。その読み取った世界の特徴が、音楽作品に反映されることは十分考えられるでしょう。その意味では、作者の精神構造の反映、と言えるかもしれません)
 第2の論点に関してもまた、表現の対象なしの創作、というのは相対的観点からのみ言えることになります。やはり、「絶対」ではあり得ません。
 
 結局、"相対的な"「絶対音楽」しか存在しないのです。
 これが、私の批判の骨子です。
 
[蛇足]
 どうやら私は、「絶対音楽」の「絶対」という形容に反発を感じていたようです。西欧近代文明の傲慢さ―自分たちの営為の優越性をこれでもかと示したがる性癖―を、その用語に感じ取ったのでしょう。その意味でこのブログ記事は、西欧文明の価値観への異議、といった色合いもありました。


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