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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

バロック音楽における、数字付き通奏低音と、機械論的世界観 

Posted on 08:57:05

 17世紀初頭に展開された音楽の一連の変革のひとつに、バロック音楽に特有の「数字付き通奏低音」の書式の出現があります。
 この事態も、同時期に立ち現れつつあった近代科学において、数学が重要な役割を果たしていたことと、並行性を看て取ることができると考えています。

 
 ルネサンス期の、複旋律が織り成すミサ曲のようなポリフォニーは、17世紀のバロック時代では主流ではなくなり、主旋律とバスラインを曲の骨格とする構成が基本形となっていました。低音部は休むことなく演奏されるため、「通奏低音(basso continuo)」と称されました。
 そして、鍵盤楽器などの通奏低音奏者は、通奏低音の譜面に書かれた数字を見ながら、即興で、和音や装飾音型や対旋律などを補填していったようです。ちょうど、今日のジャズの演奏者が、コードネームを見てアドリブを展開するごとくです。
 数字付き通奏低音の書法は、17世紀初頭から、モンテヴェルディやカッチーニらによって用いられ始めました。
 そのわかりやすいスコアの例を、次に紹介しておきます(現代的に書き直されています)
 

数字付き通奏低音の例
数字付き通奏低音の例
(A.バートン編、角倉一朗訳『バロック音楽―歴史的背景と演奏習慣―』音楽の友社、2011年、p.48より、クリックで拡大)

 

気になる方のために、数字の規則を解説しておきます。
 三つの音による和音が原則で、書かれた数字は、譜面の音に対して何度上の音が和音の構成音となるか、ということを示しています。ドミソの基本形の和音ならば、低音部の譜面にドの音符が記され、ミとソの音に相当する数字として、3と5が書かれるはずです。しかし、3と5、つまり3度と5度の音が上に載るのは和音として普通なので、3と5は省略されるのが通例だったようです。
 上のスコアで、最初の音に数字が書かれていないのは、ミソシの基本形の和音だからです。次の6は、3が省略され、3度と6度の音を指しているので、ミソドの和音となります。♯のみが記されているところ(6小節目)は、ホ短調の音階においてシを根音として3度と5度を積み重ねると、シレファ♯の和音になりますが(自然的短音階の構成音)、3度を短3度ではなく、長3度にしなさい(和声的短音階の構成音)、という指示が出ていると解釈されます。したがって、レではなく、レ♯の音が構成音となるわけです。
 Allegroの部分では、tasto solo と指示されているので、和音の補填はせず、書かれた音符のみを演奏します。
 
 さて、このように曲の和声進行が数字で表記されるようになる、ということは、それまでは明示されていなかった楽曲の数学的内部構造が顕在化したことを意味します。作曲家達はおそらく、パズルを解くような数理的思考をしつつ、さまざまな和声進行の可能性を探ったことでしょう。そして、そこには何らかの「メカニズム」らしきものがあること、つまり音楽の展開はある意味で機械仕掛けであること、に気づいていったでしょう。
 やがて、バロック時代において、和声の理論が確立していきます。この理論の中核は、和声進行の数理的規則性を抽出したものであり、自然科学の理論的法則との類似性が見出されます。
 上記のローゼンミュラーのソナタの最後の5小節の和声進行は、かなり凝っています。ほぼ1拍ごとに、和音が変化しています。また係留音が使われています。短調のバロックの器楽曲での終結部の典型いえるかもしれません。
 バロック音楽で通奏低音楽器にチェンバロが使われた場合、楽器自体も響きも機械的であり、スコアの展開も機械仕掛けであるため、メカニカルな世界がそこに出現してくるように、しばしば感じます。
 17世紀の自然科学の歴史において、世界を数学的構造として捉える見方がガリレオやデカルトによって提唱され、広まっていきました。それと連動して研究者の間に「機械論的世界観」も浸透しつつありました。
 同時代、音楽の歴史においても、バロック音楽の成立においては、数理的思考と機械論的世界観、さらに実験的精神(このポイントについてはまたの機会に)とが、深い係わりを持っていた、と私は考えています。数字付き通奏低音の出現は、そのひとつの裏づけとなる出来事と捉えることができるでしょう。
 以前のブログ記事<17世紀初頭に出現した、大譜表とデカルト座標>でも紹介したように、17世紀の初頭に、音楽と自然科学の双方において、直交座標平面を準拠枠とする方法が用いられるようになりました。
 バロック音楽の誕生においても、科学革命における道具立てと類似の手段と世界観―数学と機械論―が重要な役割を演じていたのです。

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