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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

虫の知らせと検証可能性 

Posted on 09:19:15

 
 悪い予感が当たることがあります。「虫の知らせ」で航空機事故の難を逃れた、という類の話をよく聞きます。
 ある忘年会の席で、たまたま私ひとりが科学史研究者で、他に自然科学系の人物がいなかったため、「虫の知らせについて科学哲学的にはどのように理解したらよいのか」という論題が私に向けられたことがありました。

 
 その席上では的確な返答ができず、しどろもどろの答弁のようになってしまった覚えがあるため、あらためてここで考えをまとめておこうと思います。
 
 まず、「虫の知らせといった現象が存在するか」とか、「虫の知らせの精度はどの程度か」といった命題が、自然科学のテーマとして扱えるか、という問題があります。これに関しては、少なくとも現時点では、自然科学の枠組内で検討できるテーマではない、と私は考えます。
 それには二つの理由があります。
 ひとつは、自然科学の実証主義的方法論に馴染まない、ということです。「虫の知らせ」は、予定しているところにやってくるものではありません。普通は「不意打ち」です。実験しようとして準備していても、まずうまくいかないでしょう。
 「虫の知らせ」には、「再現性」が乏しく、規則性・法則性を抽出するのは困難を極めるでしょう。「一期一会」的な現象を扱うのを、自然科学は苦手としています。方法論的な相性が悪いのです。
 もうひとつの理由は、もし「虫の知らせ」現象が物理化学的なメカニズムで構成されていたとしても、現時点での自然科学の網の目ではキメが粗すぎて掬い取れない、ということです。ひょっとしたら、情報伝達に関する未知の法則が作用しているかもしれません。 また、人間の「勘」の働きというのは、五感が受容する外界からの情報に加えて感受性が鋭敏になっている心身全体に到来し、過去のさまざまな経験も総合して無意識の領域が瞬間的に判断しているものでしょうから、多くの要因が複層的に作用している複雑系です。これを解きほぐして解釈するのは至難の業でしょう。
 したがって、「虫の知らせ」は自然科学のテーマとして採用するのは無理がある、ということになります。
 次の問題は、自然科学の枠組では捉えられない、ということは、「非科学的」現象だ、と言ってよいのか、という問いです。
 科学の枠組に馴染まない、ということは、自然科学では「判断できない」ということを意味していますから、科学的か否かを述べられないわけです。ですから、「科学的」とも「非科学的」とも言えない、ということになるでしょう。
 現在の自然科学の手持ちの手段では説明が困難な現象ですから、「科学的とはいえない」のは確かです。しかしながら、それは科学的観点からは肯定も否定もできない、というだけのことです。
 したがって、「非科学的」現象だ、とは言えません。言い換えれば、科学的でないから「ダメだ」とは言えないのです。
 
 ところで、「虫の知らせ」と同様に、「再現性」や「規則性」が低く、かつ、因果連鎖が複雑に入り組んでいる、自然科学の研究領域があります。地震や火山活動の「予知」です。
 地震にはさまざまな「前兆」現象があります。地下水の水位変化や電磁波の変化、動物の不審な挙動などです。ところが、前兆がたくさん現れても大きな地震が起こらないこともあります。逆に、前兆があまりなくとも、大きな揺れに見舞われることもあります。つまり、「再現性」「規則性」に乏しいのです。
 また、地下の挙動の物理化学的データはあまりに乏しく、ひとつの地震に対して関与する要因があまりに多岐にわたるため、その複雑系の因果連鎖を解きほぐすのは難しいのです。
 そのため、「予知」に失敗する「ことがある」のです。成功することもありますが。
 それと同様に、「虫の知らせ」も外れることがあるでしょうが、当たることもあるでしょう。
 考えてみれば、地震や噴火の「予知」は、原始的な「虫の知らせ」の延長上に位置する活動といえそうです。入り組んだ複雑系の内部に見出される、局所的因果律の束を複合的に解釈して、大局的な予想を引き出そうとする試みですから。ただし、前者が理性的判断にほぼ全面的に依拠しているのに対し、後者は「勘」の働きという、必ずしも理性的判断を優先するとは限らない、むしろそれと矛盾する場合も許容する活動に依拠している、という違いがありますが。
 全体としては、科学的枠組には馴染みにくい現象に対して、科学的道具を使える範囲において適用して判断を下しているのが、地震や噴火の「予知」といえるでしょう。その先駆的原型を「虫の知らせ」に見て取ることもできそうです。
 
「虫の知らせ」の構図を精緻化・理論化し、非合理的側面をそぎ落とした活動が、地球科学分野における「予知」となっている、と理解できます。

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