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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

仏教の無我説と、地動説・生物進化論・大陸移動説 

Posted on 06:45:47

 
 われわれは、生れ落ちたときからずっと、「変わることのない自分」が存在している、と思い込みがちです。しかし、それは錯覚である、と仏教は教えます。
 「自己」とは固定的存在ではなく、さまざまな条件に左右され、絶えず変化し続ける流動的プロセスであり、「不変の主体としての自己」という見方は虚構に過ぎない、というのが、仏教の「無我説」です。

 
 自分自身の考えだと思って、このブログに記している思索の断片も、反省的に振り返ってみれば、さまざまな人々の発想や探究の集積に根ざしているでしょうし、考え方は年月を経るにつれて、変化していきます。固執してしまう「自我」は幻想なのです。
 原始仏教でも大乗仏教でも、その誤った見方(我執)が元となって、貪る心や怒りの感情や傲慢な考え方などが湧いてくる、と説きます。無我説は、仏教の認識論・存在論の中核であり、かつ、仏教的生き方の前提となる命題でもあります。
 その無我説と、コペルニクスが提唱しガリレオらが展開した「地動説」との間に、共通点があることを、藤田一照氏が指摘していました(「仏法は世の流れに逆らうもの・上」『東京新聞』2015年10月24日、12面)
 「地動説」とは、地球の周りを太陽が回っているのではなく、太陽の周りを地球が公転し、地球自身は自転している、という学説です。
 両者とも、われわれの日常的な経験や実感にそぐわない捉え方、という点が、類似しています。藤田氏は、Counterintuitive Idea という英語表現を紹介し、どちらも「直感に反した考え方」であると考察しています。
 
 私はこの論考に接して、まずは比較の見事さに感心しました。そして、私の過去の論文の論点とリンクしうる議論であることに気づきました。
 論文「科学論争における固定的自然観の影響」において、私は、次のような検討をしています(『山梨学院大学経営情報学論集』第16号、2010年、57-67)
 科学論争の三つの事例、天動説・地動説論争、生物進化論争、大陸移動説論争を取り上げ、これらの事例に共通する点を指摘しました。いずれの論争でも、地球・生物・大陸に対して無自覚のうちに「固定的」に捉えてしまう「固定的自然観」が、論争の一方の側に大きく影響していたこと、そしてその影響力により、正当な理論に対する理解が遅れ、受容が妨げられてきたこと、が共通点として挙げられます。
 常識的・日常的なものの見方(大地は不動・生物種は不変・大陸は不動)は、暗黙のうちに自然科学の思考様式に深く介入していたといえます。
 おそらく人間の思考には、無自覚な指向性として、世界を安定的な存在と思いたがる傾向があるのでしょう。ところが、空間的視野を拡大して視点の転換を図ったり、時間的スケールを長期的に捉えたりすると、宇宙・地球・自然・生物はかつて無反省に考えられていたほど安定的存在ではなく、運動や変化をし続ける存在であることが、自然科学の進展に伴って理解されてきたのです。
 
こうした内容を、ブログ記事<固定的自然観の呪縛(その1)>でやや詳しく論じています。興味のある方はご参照ください。
 
 同様に、「自我」というものは不変の確固たる自律的実体のように、日常的意識には了解されています。そして、社会のさまざまな制度や仕組みも、その了解を前提にしているように思われます。
 しかし、そのような無自覚・無反省な自我意識が、個人の生き方や個人と社会との関係において害悪を生み出している、と仏教では考えます。仏教の世界観は、「固定的自然観」に対して挑戦しているのです。
 「無我説」のみならず、仏教には「諸行無常」の感受性が底層にあります。仏教は2000年以上前から、「固定的存在論」と格闘してきました。
 仏教と自然科学の進展との間に、「固定的自然観」への挑戦、という類似性があったというのは、実に興味深いことだと私は感じています。
 単に生物として生き延びるだけならば、不変の自我、不動の世界という了解で特に問題は生じないでしょう。しかし、人間としてよりよく生きるには、また、世界をよりよく理解するには、「固定的自然観」という枠組からの解放が要請されるのではないでしょうか。
 私は上記の類似性を、そのように理解しました。


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