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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

音楽には阿頼耶識を浄化する働きがある―プラトンの音楽論― 

Posted on 09:04:53

 
 古代ギリシアの哲学者・プラトンは、彼の著作『国家』のなかで実に興味深い音楽論を展開しています。
 健全なる成熟した市民を育てるには、「音楽・文芸による教育は、決定的に重要」である、とプラトンは主張します(藤沢令夫訳『国家』401D、『プラトン全集11』岩波書店、1976年、p.219)

 
 その理由を、次のように説明しています。
「なぜならば、リズムと調べというものは、何にもまして魂の内奥へと深くしみこんで行き、何にもまして力づよく魂をつかむものなのであって、人が正しく育てられる場合には、気品ある優美さをもたらしてその人を気品ある人間に形づくり、そうでない場合は反対の人間にするのだから」(同上)
 そして、そのように正しく教育された者は、美しいものと醜いものの識別を適切に行えるようになり、善悪、真偽の判断力も養われるであろう、とプラトンは考えています。
 
 この考察に接した際、私は大乗仏教における「阿頼耶識(あらやしき)への薫習」の議論を想起しました。「阿頼耶識」とは、意識の深層にある第八識で、如来を蔵しているところでもあります。
 阿頼耶識を手短に説明しますと、阿頼耶識には、善・不善、聖なるもの・俗なるものがともに宿っており、この第八識は、悟りの心の源泉であるとともに、迷いの心の根源ともなっています。「覚」と「不覚」の両者を含むため、「和合識」とも呼ばれます。
 私なりの理解ですが、修行によって、粗悪なる精神の働き―貪る心、怒り、愚かな思考など―の根源の初動を察知して、迷いの心が作動しないようにする、という方向性が目指されています。そして、浄化された精神に、本来もっていた覚醒心が映し出されるようになるわけです。
 阿頼耶識には、人類の長い間の経験が蓄積されています。一人ひとりの人間は、さらに個人的に、自らの経験を阿頼耶識に「薫習(くんじゅう)」していきます。その薫習の仕方次第で、その人の精神のあり方は大きく変わっていくことでしょう。
 
 さて、プラトンの言明を振り返ると、「魂の内奥へと深くしみこんで」という表現はまさに、「阿頼耶識への薫習」に相応する内容といえるでしょう。適切な音楽的刺激は、人間の精神を浄化し、その人に気品をもたらし、本来もっていた覚醒した精神を顕現させる、とプラトンの文言を大乗仏教的に理解できます。
 さらに砕いて言ってしまうと、すばらしい音楽的経験は、精神の深層に作用して、人間の精神的成長を促す、ということです。
 
 私の音楽上の経験では、音楽を「聴く」行為においても、「創る」行為においても、精神的覚醒につながることがあると感じています。
 ウィリアム・バードなどのルネサンス期のミサ曲を聴くと、心が洗われます。MJQのジャズ・バラードは、精神の凝りをほぐしてくれます。ブルックナーの交響曲の緩徐楽章は、雄大な自然界、あるいは宇宙へと、心を解放してくれます。
 おそらく、こうした音楽の試聴経験は阿頼耶識に「薫習」されて、私の精神の「根」の養分として吸収され、意識の深層構造の骨格形成に影響を及ぼしてきたと思われます。
 また、作曲という営みにおいては、潜在意識の層の活動に鋭敏になることが要請されます。少なくとも私の場合は、深層の泉から汲み出すようにして創作している、という感触を持っています。
 それゆえ、作曲時の精神は、阿頼耶識領域のさまざまな運動に敏感になっている、と考えられます。「和合識」の両面と向き合うのが創作活動なのです。そのため、作曲は仏道修行と似ている、と感じます。
 私は、作曲を、自分の人間的成長あるいは修行の一環として行っている、という面があることを自覚していました。プラトンの音楽論は、私のその認識に確信を与えてくれたように感じた次第です。
 

「阿頼耶識」の説明については、次の著作を参考にしました。
宇井伯寿・高崎直道訳注『大乗起信論』岩波文庫、1994年、pp.185-196。

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