04 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. » 06

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

楽譜には「生命」が吹き込まれている―ネウマとプネウマ― 

Posted on 11:56:51

 
 今日の音楽で用いられている楽譜は、五線の上に4分音符などが並び、小節線が引いてあるものです。現在のこの記譜法の由来を遡ると、中世の「ネウマ譜」にたどり着きます。
 今回は、その「ネウマ譜」に関する考察です。

 
 「ネウマ譜」は、9世紀頃に出現したようです。グレゴリオ聖歌などの聖歌の記譜法に用いられていました。
 歌い手が朗唱する際、記憶したメロディーを再現するための補助手段だったようです。旋律の音の高さの上下動や、表現のニュアンスを、視覚的に表現する記号、「ネウマ」が、聖歌の歌詞とともに記されていました。点や曲線の記号を見て、曲の流れを想い出すのです。
 ただし、その旋律を知らない歌い手がそのネウマ譜を見ても、もとの旋律を再現することはできない代物でした。つまり、知っている旋律を再現するための記譜法でありました。
 11世紀になると、譜線ネウマが登場し、旋律の上下動を適切に再現できるようになります。このネウマが、やがて五線上の音符へと変貌していくのです。
 

譜線なしネウマ譜 
五線ネウマ譜 
譜線なしネウマ譜(上)と五線ネウマ譜(下)
(皆川達夫『楽譜の歴史』音楽の友社、1985年、p.6, p.12より、クリックで拡大)

 

 「ネウマ」の語源は、ギリシア語の"neuma"(νευμα)で、「合図、身振り」という意味だそうです。合唱の際、出だしを合わせたりするための手の合図なのでしょう(ウィキペディア、「ネウマ」より)
 さらに、ギリシア語のネウマは、「息」を意味する「プネウマ」"pneuma"に由来することがわかりました(ハワード・グッドール、夏目大訳『音楽の進化史』河出書房新社、2014年、p.37)
 この知識を得た際、私の中では、五線紙上の音符たちが生命を吹き込まれ、踊り始めました。
 
 さて、「プネウマ」とは、古代において、「息」「霊」「生命の息吹」といった意味合いが込められて、用いられていた言葉です。
 科学史上の有名な使用例に、古代ローマ時代の医学者、ガレノスの血液理論があります。ガレノスは、身体中に延びている3種の脈管系、静脈・動脈・神経系に、それぞれ異なるタイプの「プネウマ」が流れ、それによって生命が賦活されている、と考えていました。
 静脈・動脈・神経系の順に、「自然プネウマ」「生活プネウマ」「精神プネウマ」が流れ、それぞれ、植物的活動・動物的活動・人間的活動を養います。これらのプネウマは、食物や空気中から取り入れられ、体内で変質したものと考えられていたようです。
 つまり、プネウマとは生命力の根源であり、その息吹が身体に浸透することにより、生命は活動できる、と理解されていたのです。
 
 ということは、中世の楽譜、「ネウマ」には、生命力の源である「プネウマ」が吹き込まれている、と暗黙のうちに了解されていたのではないでしょうか。学識ある修道院のカントルたちが、「ネウマ」と「プネウマ」を結びつけて捉えていた可能性は十分にあると思います。
 また、「ネウマ」を一つひとつ記す作業をしていた修道僧たちは、そこに「プネウマ」を込めるつもりで行っていたのではないでしょうか。
 その「ネウマ」の末裔に相当する五線紙上の音符たちには、「精霊」が宿っている、と見ることもできますし、「生命の息吹」が込められている、といってもいいでしょう。
 楽譜作成ソフトで記す8分音符は単なる記号に過ぎませんが、その記号の歴史的由来を理解すれば、音符に込められてきた人々の想念が透視されてきます。
 
 楽譜には、生命が吹き込まれているのです。
 演奏者は、その楽譜から、いのちを抽出して表現しているわけです。
 音楽活動は、人間の「生命」活動と深く結びついていることを、中世の「ネウマ譜」は示唆している、と私は了解しました。


 

関連記事
スポンサーサイト

テーマ - 文明・文化&思想

ジャンル - 学問・文化・芸術

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/146-b7f3486c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック