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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

音楽的協和の究極因は、天地創造時にある 

Posted on 10:46:27

 
 私たちは音楽を聴きながら、和声の協和的響きを心地よく感じます。それはなぜなのでしょうか。
 この問いに対して、17世紀の天文学者、ヨハネス・ケプラーは、壮大なる回答を提示しました。

 
 ケプラーの三法則で知られるこの碩学は、惑星の奏でる音楽について語っていることでも知られています。ケプラーの中では、宇宙論と音楽理論とが、密接不可分に結びついていたようです。
 ケプラーは、ピュタゴラス以来の伝統に従って、協和音を「比」の観点から考察します。同質の弦を弾く際に、長さの比が簡単な整数比となる場合に、協和音が成立する、という理解の仕方を継承しています。2:3の比で完全5度の和声、3:4の比で完全4度の和声が成立する、といった知見は、古代から認められていました。
 それに加え、ルネッサンス期に多用されるようになった、長3度(4:5)や長6度(3:5)などの響きとその比も、ケプラーは認めています。彼は基本的に、純正律を構成する和声とその比を重視していました。
 そして、ではなぜ、簡単な整数比が、人間に心地よさを与えるのか、という根源的な問いに、宇宙の構造を持ち出して答えようとします。
 ケプラーの考えでは、神は天地創造にあたって、幾何学に基づいて宇宙の構図を描きました。彼のイメージする幾何学の根本原理は、「比」にあります。円に内接する正多角形とそれに関連する整数比、これらを活用して、神は宇宙を創造したであろう、とケプラーは推測していました。
 以下、ケプラーの言葉を引用します。
 
「幾何学は、…宇宙が最も善き美しいものとなって創造主に最もよく似るように宇宙を整える雛形を、神に提供した。精神、魂、知性はいずれも創造主である神の似姿であり、…これら神の似姿は…、創造主と同じく幾何学から選び出された規則を遵守してはたらき、神が用いたのと同じ比を至る所に見出しては喜ぶ
(ヨハネス・ケプラー、岸本良彦訳『宇宙の調和』、工作舎、2009年、p.138。原著は1619年。強調部は森による)
 
 つまり、われわれは、天地創造時に神が活用した「比」と同じ比を協和音から感じ取るため、心地よさを感じる、というのがケプラーの見解なのです。
 音楽的協和を、宇宙の創生原理と照らし合わせて理解しようとする、壮麗な見方だと感じます。「大宇宙と小宇宙との照応」の発想の一形態といえるでしょう。
 
 話はこれで終わるわけではありません。
 今日、宇宙の誕生については、ビッグ・バン理論で説明がなされています。ビッグ・バン宇宙論に、ケプラーの視座を持ち込むことはできないでしょうか。そうした試みもなされていることを、最近、私はエレナ・マネスの著作で知りましたので、ここで紹介しておきます。ヴァージニア大学の天文学者、マーク・ウィトルの研究です。
(エレナ・マネス、佐々木千恵訳『音楽と人間と宇宙』ヤマハミュージックメディア、2012年、第10章)
 
 ビッグ・バン以降の初期宇宙が、超高温・高密度であった根拠に、「宇宙マイクロ波背景放射」があります。これは、初期宇宙のなごりの電磁波で、現在、宇宙のあらゆる方向からやってくる微弱なマイクロ波です。この波長から逆算して、宇宙始原時の温度が推測されました。
 さて、この電磁波には、波長、あるいは振動数の揺らぎがあり、スペクトル分布のようなグラフで表すことができます。そのグラフを見ると、最大のピークとなる基底音と、その倍音(6倍音まで)が小さいピークを形成しているのがわかります。
 

宇宙音響のグラフ 

(マネス、前掲書、p.223、クリックで拡大)
 

 電磁波の分布は、初期宇宙で温度分布に揺らぎが生じていたことを示しているのでしょう。その揺らぎは、当時の物質分布や物質の速度分布とも対応していたのでしょう。
 そして、重要なことは、初期宇宙に電磁波の「倍音構造」がすでに存在していたことです。つまり、宇宙創成時に、「比」が誕生していたのです。あるいは、初期宇宙には「比」に基づいた“音響”があったのです。2倍音は規定音に対し、オクターヴを形成し、2倍音と3倍音とは完全5度、4倍音と5倍音とは長3度、5倍音と6倍音とは短3度を、それぞれ形成することになります。
 その“音響”を、50オクターヴほど“転調”して、人間の可聴音域にまで移動して音を聴く試みまでなされています。

初期宇宙音の譜面化  

(マネス、前掲書、p.223、クリックで拡大)
 

 音楽的協和の究極因は、宇宙始原時に出現した“倍音構造”と「比」にあった、とケプラー的に理解したい気持ちを抑えることはできません。和声の初期条件は、初期宇宙にすでに存在していたのでした。
 協和的和声に快適さを感じる私たちの精神には、“宇宙の種子”が宿っている、という気がします。
 これも、「一切衆生、悉有仏性」の変形ヴァージョンかもしれません。

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