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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

「一事に専心」は望ましい生き方か 

Posted on 09:47:42

 
 ピアニストや料理人などの、その道一筋に生きるアーティストや職人が、自らの技芸を発揮する生き方は確かに素敵です。しかしそうした生き方が、多くの人々が参考にすべき生き方の見本といえるか、となると、私は疑問です。

 
 中野孝次さんは「一事に専心」という随筆で、自分の才能・資質を見極め、余計なことは断念し、打ち込むべき一事に専念する生き方が、人間として望ましい、という趣旨の内容を語っています(中野孝次『老いの矜持』青春出版社、2011年、pp.86-91)
 ゲーテや『徒然草』や世阿弥の言葉を引用し、「この道一筋」こそが人生の王道であることを、説得力をもって説いています。日本の伝統芸能での老いの境地の例や、多芸多才(器用貧乏)であった知人がタクシーの運転手にしかなれなかった例まで挙げ、「一事専心」を称揚しています。
 なるほど、確かにそのとおりなのでしょう。あれこれいろいろな分野に手を出しすぎると、どのひとつの事柄も一流にはなれないのかもしれません。
 けれども、少し冷静にこの主張の図柄を捉えなおしてみると、ある重要な論点をひとつ、中野さんが見落としていることに気づきました。それは次のようなことです。
 学問でも芸術でもスポーツにおいても、いくつかの分野を総合的に取り込んだ「専門」分野があります。この事実は軽視できないでしょう。さまざまな分野に手を出してきた経験が生きてくる専門分野の存在は、「一事に専心」の生き方が必ずしも万人には妥当しない、という実例になります。
 たとえば、私の専門の科学史は、文系と理系の枠からはみ出る研究領域です。高校生のころ、物理や化学や生物のみならず、心理学や哲学にも興味をもって勉強し、高校3年の2月まで、理学部か文学部にするか受験先を悩んでいた私とは、実に相性のよい専門分野でした。
 現在、勤務先の大学で、「科学史」という科目の講義をしていますが、その授業では、必要に応じて、高校の世界史や、物理や生物の内容の話をします。あれこれいろいろな分野に手を出し過ぎてきたことが、今の仕事に生きているのです。
 また、複数の分野をある程度探求していると、その中にどっぷりと浸かってきた人には見えない、その分野の問題点が見えることがあります。その分野の枠組を相対的に捉える視座に立つことができるからです。
 たとえば、科学史を研究すると、現在の自然科学の学説に対し、過去の科学論争を対比させて考えることができます。また、自然科学に歴史的視点を導入することにより、自然科学の暗黙の価値観を焙り出すこともできるわけです。
 つまり、あれこれさまざまな領域に触手を伸ばすことにも利点はあるのです。もちろん、どれも十分には深化しきれない惧れがつきまとう、というデメリットもありますが。
 
 結局、「一事に専心」するか、おのれの内なる関心に忠実に「多事に逍遥」するかは、その人の性格や天分次第なのではないでしょうか。
 その道一筋が向いている人もいるでしょう。その一方で、私のように興味本位でさまざまな分野に手を出したがる人もいるでしょう。どちらのタイプかを見極めたうえで、「一筋」が向いていると了解できた人が、中野さんのお勧めの生き方を目指せばよいのではないか、と私は思います。
 さらに私の場合、おそらく、ひとつの分野で「一流」になることよりも、いくつかの分野を並行して愉しみながら、それぞれの分野で緩やかな上達や、時折訪れるブレイクスルーを経験する悦びの方を、重視しているようです。
 「一事に専心」したとしても一流になれるとは限りません。ディレッタントでもかまわない、自分の好みの領域とともに成長していく過程を愉しみたい。そういう生き方もなかなかいいものです。
 自分の人生に何を求めるか、ということではないでしょうか。
 
(と、ここまで書いてきて、自分の生き方を正当化しているだけのような気もしてきました)


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