04 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. » 06

作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

死は安らぎであり解放である―フォーレの≪レクィエム≫の世界観― 

Posted on 06:12:40

 
 ≪レクィエム≫(死者のためのミサ曲)という曲種は、どの作曲家のものでも、幾分かはその時代の音楽様式や趨勢からはみ出るものを抱え持っているように感じます。19世紀後半のフォーレの≪レクィエム≫は、それが顕著です。
 今回は、フォーレのこの宗教曲から感じられた世界観を、綴ってみよう思います。

 
 この作品を通して聴くと、「死」が怖くなくなる気がします。
 古典派以降の、オーケストラを伴う≪レクィエム≫では、濃厚な悲哀が深刻な曲調の中で表現されています。しかしフォーレのこの音楽では、深刻さや悲哀の感情も伴うものの、それらはやや希薄で、むしろ、「安らぎ」の感覚や、「解放感」がじわじわと感じられてきます。死後の世界を賛美しているようにも感じます。
 モーツァルトの≪レクィエム≫とは実に対照的で、激情的な表現はほとんどなく、ゆったりとした至福の世界が展開されています。モーツァルトの作品ならば、K.618の≪アヴェ・ヴェルム・コルプス≫から到来する感興に近いものを感じます(フォーレの≪レクィエム≫の最終曲<イン・パラディズム>はニ長調で、K.618と同じ調性で曲が閉じます)
 フォーレの≪レクィエム≫は、「天上界」あるいは「浄土」を表現している、と私には感じられます。とりわけ、第3曲の<サンクトゥス>における、合唱とヴァイオリンとの対位法的な絡みは絶妙で、この世のものとは思われません。この<サンクトゥス>を何度聴き直したことでしょう。
 この作品で死後の世界が賛美されているとすると、この世界観は、私の愛読書の『荘子』の死生観とも通じるものがあります。『荘子』の「内篇」では、万物斉同の考えに基づいて、生と死を等価とみなしますが、「外篇」や「雑篇」になると、社会通念に対するバランスをとるためか、「死」に対する肯定感や待望感が濃厚になってきます。たとえば、「外篇」に含まれる「至楽篇」で、荘子が髑髏と対話します。髑髏は、死の世界の美しさや快適さを語ります。
 『荘子』は、不可知で怖れの対象である「死の世界」を否定せず、おのずと受容できるように語りかけます。それと同様に、フォーレの音楽は、従容として死の世界に赴き、浄福感に包まれていく様子を描いているようです。
 また、同じ19世紀のベルリオーズやヴェルディの≪レクィエム≫がオペラの風情を感じさせるのとは異なり、フォーレの≪レクィエム≫からは、清澄なる祈りの世界が現出してきます。むしろルネサンス期の、管弦楽の伴わない合唱のみの≪レクィエム≫と通じる面があるように感じます。
 とりわけ、1500年ころのフランドル楽派の作曲家、ピエール・ド・ラリューの≪レクィエム≫との類似性を強く感じます。悲しみよりも安らぎの情感に重きが置かれている点、天上界から光が差し込むような異世界の感覚、印象的なカノンを要所で活用している手法など、ラリューのロマン派ヴァージョンのようにも思えてきます。
 フォーレのこの作品は、音楽構造が「複層的」なのです。基層に、中世やルネサンス期の教会旋法が伏在し、その上に近代的な調性音楽が管弦楽を伴って構築されています。さらに表層には、ヴァーグナーやブルックナーが用いそうな“崩れかかった”和声進行も見られます。
 教会でのオルガニストを長らく務めていたフォーレは、ヨーロッパの過去の宗教音楽に精通していたのでしょう。さまざまな時代の宗教音楽の片鱗が、フォーレの音楽からは溢れ出てきます。
 それゆえでしょうか、彼の≪レクィエム≫からは、死後の世界の複層性をも感じます。いろいろな時代の人物が時間を超えて共存している様相を、暗示しているようです。
 そしてこの「複層性」は、人間の精神の内的構造にも対応しているのではないか、と思います。フォーレは、「死者のためのミサ曲」の表現を通して、死や宗教の世界と精神構造に共通する「複層性」を提示したかったのではないか、と私は愚考します。
 この作品を聴き終えたときに到来する解放感は、宗教的な「悟り」の境地と通じるものがあるように思います。
 
愛聴盤の紹介:私が何度も聴き込んだフォーレの≪レクィエム≫のCDは、コルボ指揮、ベルン交響楽団とサン=ピエール=オ=リアン・ド・ビュール聖歌隊の演奏です。
 優美な異世界が、見事に立ち現れます。


関連記事
スポンサーサイト

テーマ - クラシック

ジャンル - 音楽

△page top

△page top

Secret

△page top

トラックバックURL
→http://wood248.blog.fc2.com/tb.php/127-f0c9c5bc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

△page top

カテゴリ

全記事一覧リスト

最新記事

月別アーカイブ

コメントをどうぞ

最新コメント

最新トラックバック