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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

「魔弾の射手」序曲のホルン四重奏の響き 

Posted on 09:36:07

 
 前回のブログ記事、<序曲の魅力>に書いたように、私は最近、「序曲」というジャンルを聴き込んでいます。何曲かについては、スコア研究が必要と判断しました。
 今回取り上げる、ウェーバーの「魔弾の射手」序曲に関しては、ポケットスコアを八王子の山野楽器で3月19日に入手しました。
 スコアを見ながらCDの演奏を聴いた結果、いくつか気づいた点が出てきました。そのなかでもとりわけ興味深い点について、このブログに記しておくことにします。

 
 「魔弾の射手」序曲では、ゆったりとした序奏の後、有名なホルンのアンサンブルの旋律が現れます。山、あるいは、森を連想させるメロディーです。
 スコアを見ると、4本のホルンを使っていることがわかりました。四重奏です。さらに、2本のホルンがF管、もう2本がC管となっていました。
 この曲のこの旋律部分は、ハ長調です。最初の8小節について、和声を確認してみると、1、3、6小節目は、ドミソの和音(コードネームならばC)の音のみが使われています。また、5小節目は、フャラドの和音(コードネームならばF)の音のみが使われています。
 そして、1、3、6小節目はC管のホルンが担当し、5小節目はF管のホルンが担当しています。スコアをご参照ください(クリックで拡大)
 

「魔弾の射手」序曲・ホルン四重奏

 
 当時のホルンは、ヴァルブの付いていないナチュラルホルン(ハンドホルン)だったので、演奏できる音が限られていました。その実用上の要請から2種のホルンを活用したと、まずは考えられます。
 しかし、それだけではありません。ウェーバーは、この旋律とホルンとの組み合わせで、「純正律の響き」を狙っていたのだと推測できます。
 自然倍音をいくつも演奏可能なホルンに、自然倍音内の音を並べた旋律を演奏させている、ということは、その意図するところは明らかでしょう。上記の4つの小節では、すべての音が、それぞれの管での自然倍音列上の音になっています。
 それぞれの管のホルン奏者が、譜面どおりに演奏すれば、自ずと純正律の和声が響くように、作曲されているのです。
 
純正律は、自然倍音列(*)に対応しているため、音階に関してはややぎこちなく感じることもあります(全音の間隔が2タイプあり、2つの半音の間隔がやや広いため)。その一方、和声に関しては、周波数が単純な整数比となるので、響きが実に美しいのが特徴です。純正律のドミソの和音の周波数比は、4:5:6です。それに対し、平均律のピアノのドミソはきれいな比にはならないため、少し濁って聴こえます。ウェーバーの時代では、平均律はまだ普及していませんでしたが、純正律は廃れ、中全音律やウェル・テンペラメントといった音律が主流だったようです。
 
「自然倍音列」とは、基音に対して、自然数倍の周波数をもつ音のこと。ドを基音とすると、2倍音、4倍音、8倍音が、1オクターヴ、2オクターヴ、3オクターヴ上のドとなります。2、3、4、5、6、8、9、10、12倍音を記すと、ドソドミソドレミソ、となります。
 
 和音を分解したような旋律を、ナチュラルホルンにアンサンブルで吹かせ、なおかつ2種の管を用いて、2つの和声に対応させているのです。「純正律の協和音」を響かせたかったのは、間違いないでしょう。
 
 では、現代のヴァルブ式のモダンホルンで演奏する場合、純正律の和声は響くのでしょうか。
 一般的な、F管のホルンで演奏すると仮定すると、5小節目のFの和声音は、すべてヴァルブを押さえずに演奏できます。よって、現代のオーケストラでも、5小節目に限っては、純正律の和声が聴き取れるはずです。
 Cの和声音は、F管ではソシレとなるので、シ(実音でE)に関してはヴァルブを押さえなければなりません。そのため、単にスコアどおり演奏すると、若干、純正律の協和から外れるでしょう(シがわずかに高くなります)。ただし、ホルン奏者は微妙な音程調節ができますから、純正律に近づけることを意識すれば、それなりの響きは得られるはずです。
 ドミソの和音に関して、平均律と比べると、純正律では、ソの音はわずかに高く、ミの音はわずかに低いので、ミとソの間隔が聴き慣れた平均律よりも若干広く感じます。その広めの感触が聴き取れた場合、演奏家が意識的にか無意識的にか、純正律に近づけた奏法を試みていると判断できます。
 3種の「魔弾の射手」序曲の演奏を聴き比べてみましたが、Cの和声音も純正律に近いように聴き取れた演奏がひとつありました。カラヤン指揮、ベルリンフィルの演奏です。
 また、ナチュラルホルンの素朴でまろやかな響きを思わせる演奏もありました。グスタフ・クーン指揮、ドレスデン・シュターツカペレの演奏です。
 
 「魔弾の射手」序曲の舞台は、森の連なる山岳地帯です。背景となる自然描写として、ウェーバーは、ナチュラルホルンによる「純正律の響き」を活用した、と考えられます。2組のホルンで、ほぼ自然倍音のみで演奏できる旋律を創作し、それを序曲の最初に立ち現れるメロディーに選定したのでした。

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