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作曲と思索の愉しみ

オーケストラ作品の作曲・制作過程や、科学史と音楽史の研究にかかわる記録です。 森さちやの自作曲の公開も行います。 曲と思索を分かち合いたい。

「骨格のみの文」に、和声や伴奏をつける 

Posted on 06:59:40

 
 メールでの短い事務的な文章では、最低限の意味は伝わるものの、書き手の感情の動きや相手に対する距離感といった、細やかなニュアンスは伝わりにくいものです。
 その同じ文面を、肉声で現実に対面する相手に語りかけるなら、文字情報以外のさまざまな事柄も同時に伝達されるでしょう。喜んでいるのか、悲しんでいるのか、相手に対して心理的な救いを求めているのか、何かを期待しているのか、そういったことまでなんとなく感じ取れるものです。

 
 「私はその案に賛成します」とか、「その件に関しては了承しました」といった、事務的な「骨格のみの文」には、もともと付いていたであろう細部の断片的情報が剥奪されているため、読む側はおそらく無意識のうちに、その周辺にまとわり着いていたはずの周辺情報を復元しながらその文章を読むことになるでしょう。
 ところが、その「復元」の作業が適切に行われるとは限らず、細部のニュアンスをめぐって意志伝達に齟齬をきたす可能性があります。あるいは、相手を決定的に誤解してしまう惧れもあるでしょう。
 
 この「骨格のみの文」と似た構図が、音楽にもあります。
 伴奏なしの「メロディーだけの曲」です。
 誰かが口笛で、あるメロディーを吹いているとします。口笛を吹いている人は、その曲を知っているので、そのメロディーに付随する和声などを自分の中では同時に演奏していることでしょう。ところが、その曲を知らない人がその口笛を聴いた場合、その口笛に対して何らかのハーモニゼーションを無意識のうちに試みているでしょうが、口笛奏者と同じ和声進行が心の中で復元されているとは限りません。むしろ、一致しない場合のほうが多いでしょう。
 たとえば、[ソラシド]という音列の場合、ハ長調かもしれませんし、ト長調(のドレミファ)かもしれません。イ短調の曲の一部の場合もありえます。和声進行に関しても、コードネームで記すと、Cに向けての進行、Amに向けての進行が想定できますし、FまたはFmで終わる進行、A♭で終わる進行なども考えられます。
 「骨格のみの旋律」は、多義的な解釈が可能なのです。あるいは、さまざまな潜在的可能性を秘めている、といえるかもしれません。
 この多義性、または潜在的可能性を活用している代表格が、「変奏曲」です。単純なモチーフが秘めている可能性を最大限に引き出す曲種です。また、ひとつのメロディーが複数の調に解釈できることを利用して、転調部分に用いたりもします。
 「骨格のみの旋律」とは、海水面上の氷山のようなもので、水面下には膨大な可能性が未発現のまま眠っているのです。
 
 こうした構図と同様の事態が、電子媒体上での「骨格のみの文」に見て取れます。
 それゆえ、書き手の側は、自分の文章の背景やその文への思い入れなど、伴奏に相当することを意識して書き込む方が親切かもしれません。また、読み手の側は、付随するはずの情報の復元には誤解がつきものと観念して、慎重に受け取る必要があるでしょう。
 そうしたことを踏まえた上でなお、「骨格のみの文」にも変奏曲のような潜在的可能性があることを排除はできないでしょう。誤解や曲解が切り開く豊穣な解釈の世界もあるのではないでしょうか。
 「骨格のみの文」に、想像力豊かに、さまざまな伴奏をつけ、そこから多様な解釈を引き出す。正解・誤解の呪縛から解放されて、自在な意味変容の世界に遊ぶ。そこに透視される世界の奥行きと戯れる。
 そんな愉しみも、「骨格のみの文」は提供してくれるはずです。精神の“凝り”がほぐれます。
 こう書くと、「それは具体的にはどのような世界のどんな愉しみなのか」といった問いの声が聞こえてきそうです。
 それこそ、あなたの想像力にお任せします。


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